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不慮の事故
「ちょっと、アンタ、煙草の煙臭いんですけど!?みんな迷惑しとるってわからないんですか!?」
「そーそー。副流煙って言葉知らないの?」
あぁ、生きづらい時代になったもんだ。
「ここは吸っても大丈夫なとこやないですか。ルールは守ってるんすけど。」
そう、彼は“ルール”を守っている。
「そう言う問題じゃな....ちょっと!話は終わってへんよ!」
どこで煙草を吹かしても、文句を言われる。法を破っているわけでもないし、隔離された喫煙エリアなる場所で迷惑にならないように嗜んでいる。
だが、時代の流れ哉。どんなに抵抗したって無駄だ。世論が嫌煙論者の意見に傾いている。
「ちょっと!!」
そして、そう言うモラルだなんだと言う正義を振りかざす人間は、自分が正しいと言う事を皆が正しいと思うように脳が錯覚してしまうのか、偉く攻撃的だ。
「うるっさいなぁ、吸うの辞めたったやないすか。これ以上なんか文句あるんすか?」
煙草を吸っているだけで虐めても良い、何を言っても良いわけではないだろう。
「脳までヤニに毒されて可愛そう!!」
勝手に文句をつけ、勝手に哀れまれ。滅茶苦茶だ。
「すんませんね。」
唯、もう他人と白昼堂々と口喧嘩するような歳じゃない。ガキならまだしも、俺は成人してるんだから。
心の中で自分を励まし、形だけの謝罪を述べ、その場を後にした。折角の休日のスタートがこれかと思うと、先が思いやられた。
彼は大学生の2回生。久し振りに家でダラダラする休日を捨て、外に出て来たのだ。
「はぁ、煙草吸ってもなんも言われんとこ行きたいわ。」
先程のやり取りを思い返し、そんな事を呟いた。
近くに停めてあったバイクに跨り、ヘルメットを装着し、発進。
今日は嫌な気分になったからヒトカラにでも洒落込もうと、大きな交差点を右折しようとしたその時。
無謀なスピードを出した直進車が信号無視して突っ込んできた。
赤信号に右折の青い矢印。安心仕切ってアクセルを開けたのだから、もうブレーキを踏んでもハンドルを切っても間に合わない。
ドン!! ガチャン!!
120km/hのミニバンは凄まじい質量の鉄の塊と化し、バイクを軽々吹っ飛ばした。
目撃者多数、金髪の若者が無免許で無謀な運転。20歳の若者の命が失われた。そんな見出しの新聞が翌日には掲載されそうな程の大きな事故。
だが、運転手の若者に課されたのは運転過失致死でなく、無免許運転とスピード超過による免許取り消し処分だった。
警察による再三の操作、多くの目撃者、ドライブレコーダー、監視カメラの映像、車の損壊具合。
全てが「不可解な結末」を示していた。
──車との衝突後、バイクごと綺麗に消えて無くなっていたのだ。
この事件は、世紀の怪奇事件として語り継がれるが、当の本人はそんな事を知る由もなく──。
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