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騒動収束
ユウトは、アルゴスの墓からウェネッツに着いてからすぐさま宮廷へ向かった。こんな大犯罪者を宮廷へ入れる事は憚られるべきだろうが、それ以外にどこへ連れて行けば良いかわからなかったからだ。
「すみません。こいつ知ってます?」
「なんだ、お前は。こんな街中で煙草を吸って。それに......両方ボロボロじゃないか。どれどれ......──ッ!?」
門番へ入廷の許可を得るため、まず担いでいる男の顔を拝んで貰った。
「どうですか? 知ってる顔でした?」
「ししし......知っていますとも!! 最上級のお尋ね者ですよ。こいつは間違いなく奇術師です。手にある蟹座の痣、それに、この目の傷が何よりの目印。どうやってこいつを倒されたんですか?」
「ちょっと頑張りましてね。強めに3回蹴ったらこうなりました。」
「は......はぁ? 強めに蹴った......ですか?」
その男の正体が奇術師だと知った途端、態度や言葉遣いさえも変貌した。
こいつそんな有名なんや。なんか勝手に寝とって鬱陶しいし落としたろ。
「うぎゃッ!! おィ......丁重に扱わねえと流石に俺だって死んじまうぜェ......?」
落下の衝撃で気絶していた男が目を覚ました。
「嘘つけや。そんなんで死ぬんやったら一発目で死んどるわ。あれでも本気で蹴ったら死ぬかも知れんと思ったから加減したってんねんぞ。」
一度目にデコピンで吹っ飛んだアクエリアスを見ているため、本気で蹴飛ばすのも憚られたのだ。人殺しにはなりたくなかったし、ちょっとだけ、罪人は法によって裁かれるべきだと思っていたからだ。
「あァ......? 嘘つけェ......あれが本気じゃァないならこの世界で誰も力比べでお前に勝てねェじゃねえかよォ......」
「試してみるか? お前が望むんやったらしゃーないからやったらんでもないけど。」
ペラペラと御託を並べる犯罪者に、お前を潰すのはいつでも出来るのだと目と言葉で伝えた。
「......遠慮しとこうかァ......洒落にならねェからなァ......」
「彼は、本気で蹴られるのは洒落にならないそうです。信用頂けました?」
「え......えぇ、まぁ。 あ、あの、貴方様、名はなんと?」
まだ彼の名前は知れ渡っていないようだった。
「僕はユウトと申します。星冠者という者に分類されるそうです。先日からこのアクエリアスに味方させていただく事になりましたので、今後とも、宜しくお願い致します。」
そう言って、手の甲の痣を見せ、最後に頭を下げた。
「あ、頭をお上げください! 私めはユウト様のような方が頭を下げるような者ではありません!」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。僕はどんな人間に対しても同じ対応を心掛けているのです。身分や生まれで差別もしません。みんな同じ人間ですから。」
「さ、左様ですか。御立派な信条をお持ちですね。」
「ま、こういう悪党は別ですけどね。」
足元に転がっている悪党を足で突く。
「やめてくれェ......そこのお前!! 頼むから早く俺を檻に入れてくれェ......こいつから引き離してくれェ......!!」
「おい、口の利き方は気つけろや。お前如きにお前とかこいつ呼ばわりされる俺らの身にならんかい。この場で爪先から挽肉にしたっても一向に構わんで?」
「す.....すみません......た、頼みま......す。あ、貴方、どうか、早く檻へ入れて下さィ......」
「こう言ってますが、こいつどうしますか?」
「私が警備隊に連絡します。ユウト様はどこにお住まいですか?」
「今家がないので、宮廷の客間に住んでるんです。入れてもらってよろしいですか?」
「え、えぇ。少し確認を致しますので、ここでお待ちを。おい! そこの君!! 少しここを見張っていて貰えるか?」
彼は。少し離れた場所を見張っていた別の門番へ声を掛けた。
「えぇ、構いません。」
すぐさま走って来た。
「任せたぞ。では、すぐ戻って参りますので。」
彼は宮廷の中へ駆けて行った。
「はい。お願い致します。」
そう言って見送った。
5分もしないうちに彼は帰ってきた。
「確認が取れました。どうぞ中へ。」
「ありがとうございます。こいつ暴れたらなかなか危ないので、気をつけてくださいね。
念のために警告しておいた。
「すみません。やはり警備隊が到着するまでここで待っていただく訳にはいきませんか?」
「えぇ、それが良いですね。気が回らず申し訳ありません。」
そう言った瞬間、足元の奴は悔しそうな顔を浮かべた。
警備隊が来るまで待つ事になった。ラスクから貰った煙草が切れたので、収納魔法で煙草を取り出した。ついでに刀も仕舞っておいた。今は少し彼女を思い出したくなかったからだ。
感傷に浸りながら煙草に火をつけ、吹かす。何事もトントン拍子で上手くはいかないものだ。彼女らへの対策も練らないといけない。魔導も、この世界の常識も、知識も学ばなければいけない。
思わずため息を吐いた。ため息とともに煙が舞い上がって行く。煙を目で追い、空を眺めた。すると、少し離れた場所から大きな、眩い光が目に入った。
「なんです? あれ。」
「わ、分かりかねます。ですが、あの辺りは警備隊が多く駐在している犯罪者収容施設ですので、問題ないでしょう。」
「そうですか。あ、そうでしたら、こいつそこまで運んでいきましょうか? ちょっと気になりますし。」
「よろしいのですか? そこまでして頂いて?」
「構いませんよ。自分が持ってきた面倒ごとですから。」
そう言うと、酷く困惑した表情を見せられたが、気にしないでおいた。
「案内お願いできますか?」
「えぇ、君、しばらくここを頼んだぞ。もし警備隊を入れ違いになったら、今の旨を伝えておいてくれ。」
「わかりました。」
「ではいきましょう。」
「よろしくお願いします。」
奇術師を拾い上げ、ついて行った。
そう言えば、こいつ普通に担いでるけど、俺そんな力あったっけなぁ......? ま、ええか。
そうして犯罪者収容施設へと足を運んだ。
──────────────────────────────
「あ、ユウトじゃないですか、あれ?」
犯罪者収容施設に残党を連れて来た二人が、奇術師を連れて来たユウトを遠目から見つけた。
「ほんとだ。こんな早く会うとはね。さ、行きましょ。善は急げって言うし。」
「そうですね。行きましょう。」
彼女らがあの光を起こした張本人達だ。だがユウトはそんな事を知る由も無い。
────────────────────────────
「着きました。ここです。」
「どうも、ここまでありがとうございました。お礼をしたいのですが、僕は今素寒貧でして。申し訳ありません。」
「いえいえ、とんでもございません。そこの警備隊の君!! この方を中へ案内してくれるか?」
この門番は、割と上の階級なのか、割と偉そうに話す人物だった。
「宮廷の門番さんがこんなところまで如何様で?」
「聞いて驚くなよ。アルカディアの頭領、奇術師をこの方が捕まえてきた。」
「何を馬鹿な......おい、お前。そいつの顔を見せろ。」
警備隊の彼の話の矛先が此方へ向いた。
「えぇ、どうぞ。おい、顔上げや。」
「あァ......どうぞォ......」
「な──っ!? 本物!? 手の甲......蟹座......の痣......しかもこいつにも......!?
──っこっ! これは失礼致しました!! 無礼な物言いをして、誠に申し訳御座いません!!」
やはりと言ってか、高圧的な態度を翻した。こう言う人間になりたくない。だからこそ、彼は誰にでも平等な態度を心掛けているのだ。
「構いませんよ。勘違いは誰にでもありますからね。どうしたら良いですか? 結構力強いんですよ。こいつ。」
「はぁ......け、結構力が強い......ですか? 上の者を呼んで参ります。」
「はい。すみませんね、仕事増やして。」
「め、滅相もございません!!」
慌ただしく走って行った。
「では私はこれで。持ち場をあまり離れると大目玉を食らってしまいますので! ははは!!」
また、門番の彼も小走りで持ち場へ帰って行った。
「お前のせいでなんぼの人間動いてくれてるおもてんねん。どこまでも迷惑なやっちゃで。」
「あん......貴方が俺を捕まえたからでしょうがァ......」
「お前が喧嘩売ってきたんやろ。人のせいにすなや。」
「はい......」
あの時の威勢は何処へやら。もはや一大組織の長だったとは思えないレベルの落ちぶれっぷりに、残念ささえ感じた。
「なんかお前、力なかったら一生ダラダラ過ごしてたんやろな。悪党言うても命乞いしたり、俺に敬語使ったりって、悪党として一本筋が通ってないねん。ダサいわぁ。」
「......」
「なんも言い返せへんのかい。ほんまダッサイわ。一生後悔しとけ。」
沈黙が流れる。煙草を吹かして深呼吸する。
なんでこんなアホに説教たれてんねんやろ......意味わからんわ......
思っていると。
「ユウト! おーい!!」
自分を呼ぶ声がしたので、声の方を見る。アウロラとキャロルだ。
「はぁっ......はぁっ......ユ、ユウト。ご、ごめんね、さっきは。冷静じゃなかったの。」
「私も、ごめんなさいね......」
二人、開口一番に謝罪が出た。
「いやいや、全然ええよ!! なんであんな態度なんかな〜、嫌われたんかな〜って思って色々考えててんけど、結局なんやったん? やっぱり煙草? それか、あの斬撃?」
「ぷふふ......はははっ! やっぱりユウトって変よね!」
「そ、そうね。なんか心配してたのがアホらしくなったわ......」
なんやこいつらは......謝ってきた思たら貶してきよって。
「そんなん言うてまた俺のとこ来てるあたり、お前ら俺のこと嫌いじゃないんやろ。あの行動の理由を言わんかい。」
「知らな〜い!」
「私も〜今思ったらアホらしくて忘れちゃった。」
「己ら......」
そんなことを言っていると。
「あ、ユウト君、ユウト君じゃないか?! 君か、奇術師を倒したのは。驚いた。昨日の今日でもうこんな大きな手柄を挙げるとは。」
そう声を掛けてきたのは、クルードだった。
「いやいや、そんな。それより、クルードさん。ここで働いてらしたんですね。貴方ならこいつ任せられそうです。どうぞ。」
「それよりって......ユウト君はやはり変わっているね。確かに預かったよ。後日何かしらの褒美が与えられるだろうから、一応そのつもりはしておいてくれ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「礼を言うのはこちらの方なんだが......まぁ受け取っておくよ。こちらこそありがとう。では、また会おう。」
クルードはクールに去って行った。
「はぁ、これで一件落着か。」
「疲れてるとこ悪いけど。ユウト、仲直りの印に、私のお家で食事会しましょうよ! 奇術師征伐と、アルカディアの本拠地制圧を祝して、パーッと!!」
「おぉ、良いねえ!! アウロラの家入って良いの!?」
「良いわよ? 主役が外にいてどうするのよ。ね、キャロルさん。」
「そうよ。そして、私、立案者。感謝してね。」
こうして、アウロラ奪還作戦翻ってアルカディア及び奇術師殲滅作戦は収束した。
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