些細な祝典

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些細な祝典

「さ、二人とも入って?」 「お邪魔しま〜す。アウロラの家おっき〜ね!」 「お、お邪魔します......」  打ち上げ──ではないが、小さな(わだかま)りに一区切りつけるために、アウロラが自分の家で盛大なパーティを開く事を提案した。  奇術師(トリックスター)を犯罪者収容施設へぶち込んだ後、その提案を飲み、買い出しに行き、今に至る。 「出来合いものものを買ったし、机にパーッと並べてパーッとやりましょう!」  大きな部屋の中央に大きな机が置いてあった。  持て余してそうやなぁ......一人でこんなんいるか?  などと思うほどに、一人で暮らすには大きすぎる家に、過剰すぎる家具が敷き詰められていた。 「なんかあんま生活感ないなぁ。子綺麗で。」 「ま、いつもここは使ってないから。私一人には広過ぎなのよね。この家。」 「羨ましいな〜。良いな〜。」  キャロルは、辺りをキョロキョロ見回し、そこらをウロウロしていた。 「なんやキャロルえらいはしゃいで。子供みたいになってるし。幼児退行か?」 「しっ! 失礼なっ! 私はこれでも......ごにょにょ......」 「中身年増やもんな! はっはっは! オバハンがはしゃいどる!」  超絶最低な言葉の連打を喰らわせた。言って、「あ、これ笑えへん冗談や」と気づいた。しかし、時既に遅し。 「──っ!? ユ、ユウトぉ......」  ごつん! ドスッ! 鈍い音が響き渡った。 「「最っ底ッ!!」」 「カッ......!! ──ッ!! ──ッ!!」  アウロラは脳天を拳でかち割り、キャロルは男の宝である双玉を蹴り上げた。  力の逃げ場が一切なかったため、ダメージは極大だった。最早声も出せずピクピクと痙攣していた。 「すみっ......すみませんで......シタ......」  そう言って彼は白目を剥いて気絶してしまった。 「や、やり過ぎましかたね......?」 「これぐらいしないと直らないんじゃ無い? 今後を考えてもこれはやり過ぎって事はないわ。」 「で、でも、なんかユウトも普通の人間だって分かりましたね。」 「そうね。幾ら強くたって、弱点は弱点らしいわ。」  キャロルは無様に股間を抑えつけ失神している彼を見ながらそう言った。 「つ、潰れてないですかね......?」 「知らないわよッ! あんな奴の種なんて消えた方がマシじゃないかしら?」 「キャ、キャロルさん......ひどい......」  言いながら、アウロラはユウトに回復魔法を掛けた。 「なっさけない。ほんっと情けない男だわっ!」 「仕方ないですよ。」  5分ほど掛けて念入りに回復魔法を掛けた。特に大事な部分は念入りに。 「ん......あぁ......どこやここ......?」  介抱の甲斐あって、彼は目を醒した。 「もう一回やってみる?」  シニカルな笑みを浮かべてユウトのシンボルに足を向けた。 「あっ! 思い出したぞこのボケ......俺が120%悪いとはいえ......やってくれたなぁ!?......よくも......俺の右近寺と左近寺を......」  目を覚まして開口一番、訳の分からない事を口にした。 「ぶふっ!! ソレに名前付けてるの!? アホだ〜! あはははははっ!! ユウトって本物のアホだわ!!」 「ぷぷっ、ふふっ。真剣な顔で何言ってるのっ? ふふっ。ぷふふっ。」 「何をわろとるんじゃ!! 子供作れんなったらどないしてくれるんじゃ!! 大丈夫か〜、右近寺、左近寺......おいおい、息子よ、なんでそんな元気なんや?」  激昂する彼を他所(よそ)に、一人息子は回復魔法が効きすぎて元気が溢れかえっていた。 「ぎゃはははははははっっっ!! ひぃっ、勘弁してっ! 死ぬっ! 死んじゃうっ!」  キャロルは彼を見て、本当に死にそうなほど大笑いしていた。 「ユウト、頭大丈夫?」  アウロラは、心底心配な顔をして彼に問いかけた。 「大丈夫。オールオッケー。そこの気狂い(アホ)の方が頭おかしいと思うで。」  幸せそうに転がりまわって笑っている少女を指差してそう言った。 「本当に? ここ、腫れてるけど大丈夫?」  そう言って彼女は主張の激しい息子に手を触れた。 「どどどどど、どこ触ってんねん!? 今触ったらあかんがな!!」 「だって、あんなに回復魔法掛けたのに腫れが引かないって異常よ?」 「こ、これはお前......言わすな! んなことより、はよパーチー始めるぞ!!」  立ち上がり、ワタワタと打ち上げの準備を始めた。 「だ、大丈夫ならいいけど......」  彼女もそれに続いた。 「い、いひ、いひひっ......し、しぬ......いひっ......」  そんな中、キャロルは笑い死に掛けていた。 ────────────────────────────── 「何がともあれ、奇術師(トリックスター)征伐を祝して、乾杯ッ!」 「「かんぱーい。」」  キンッと硝子が打ち合う心地の良い音が響き渡る。 「さっきはごめんな。アホなこと言うて。」 「こちらこそごめんなさ......ぷふッ! さ、左近寺とっ、ぶふっ、右近寺を傷つけてっ......あははっ! ダメッ! 忘れられないっ! ぷふーっ!!」  楽しそうに思い出し笑いをしている。 「下ネタ好きすぎやろ......」 「本当に、左近寺さんと右近寺さん大丈夫なの?」 「お前ら好っきゃなぁ!? ほんま!」  あのアウロラまで乗っかり出した。 「にしても、なんでこんな(アホ)にビビってたのかしら? 恥ずかしくなるわ。」 「ユウトは悪気なかったのに、ね。」 「アウロラは可愛さと真摯さに免じて許す。やけどキャロル。お前はもう知らん。てかほんまに()ねや気悪いッ。」 「まーまー、そー言わず。本当は感謝してるんだから。ささ、飲んで飲んで。」  (わざ)とらしい口調で酒を注いでくる。 「ほんま調子ええやっちゃで。ピエロ見てチビりそうなってた癖に。」 「チ、チビったら悪いの!? 相手は天下御免の奇術師(トリックスター)だったのよ!?」 「あぁ、ほんまにチビったんかい。ちゃんと下着変えたんやろな。見た目だけじゃなくほんまにションベンくさなるぞ。」 「デリカシーのない奴ねっ! 死ねっ!」 「お前にデリカシーなんか要らんやろ。なんやったら今キャロルのことちょっと嫌いやし。」 「ユウト、キャロルさんは天邪鬼なのよ。照れ隠しよ。照れ隠し。」 「なっ、何言ってるのアウロラ? こんな奴なんとも思ってないわよ! アホでデリカシーないし強いくらいしか現状取り柄ないじゃない!」 「放っとけタコ。キャロルさんよぉ〜、見た目も中身もガキのくせに酒なんか呑みやがって。あかんぞ〜。お漏らししたら大・変・や。」 「ユウト......ひ、ひどいよぉ......ううっ......うぅ......」  キャロルは何故かあからさまな泣き真似を始めた。情緒不安定にもほどがある。 「アウロラ〜、お酒注いで〜?」 「はいはい。ユウトもお願いね〜。」  そんな面倒臭い彼女は放っておいて、折角なので楽しむ事にした。  美女に注いでもらう酒ほど美味いもんはあらへんでぇ 最高やなぁ〜 「ありがとうな〜。 ぷはぁ〜!! ンマイ!! ほんまアウロラはこんな性格も見た目もええのに、こいつと来たら......」  なにかとツンツンしていたアウロラだったが、アルカディアの一件が済んでからはどこか心を許してくれたような様子を見せている。控えめに言って可愛すぎる。  一方キャロルは逆だ。出会ってアルカディアの一件が済んでからと言うもの、なんの遠慮もない。(けな)(ののし)(おとし)める。やりたい放題だ。押し付けがましい事は言いたくないが、助けてやったのにこんな態度だと、釈然としない。と言うか不快だった。  実際、アウロラの言うように天邪鬼なだけなのだが、(ただ)でさえ女の子の扱いに慣れていない彼はそんな事を察せる筈もない。 「まぁまぁそう言わずに。これから長い付き合いになるかも知れないんだから。仲良くしなきゃ。」 「見てみ、あの同情を誘うための無様な嘘泣きを。チラチラ見て来とんのみえとんねん。涙の一つも流してみぃっちゅうねん。大根役者め。」 「うぅ......本当にごめんなさい〜。許してよ〜。」 「あぁ! そこまで言うんやったら 俺は! 許したるわ!! やけどなぁ、右近寺と左近寺が了解せなどうにもならん。ちゃんとこいつらに謝ったてんか!」 「ご、ごめんなさい......」  彼女は素直に恭しく頭を下げた。 「おいおい、冗談やって。もうええよ。さっきの威勢はどこ行ったんや......調子狂うなぁ。」 「まだ腫れれる〜。」 「これは通常運転や。なんかさっき目さめてから治らんぞ。何してん......」  アウロラは早くも少し呂律が回らなくなって来た。そして、元気溌剌な一人息子はその後もなかなか治らなかった。 「まぁ、なんや。さっきはほんまにすまんかった。ほら、仲直りや。呑んでくれ。」  キャロルに酒を注いでやった。 「う、うん。ありがと。じゃ、私も。」  彼女もまた注いでくれた。  仲直りの乾杯をし、さっきの事はお互い水に流す事にした。ユウトも、正直キャロルの行動の原因も、何もかも悪いのは自分だと心の底では思っていたので、一区切り付いてホッとしていた。 「ヒューヒョ〜、もっひょ呑まらいと〜。」 「酔い過ぎちゃうの? 大丈夫?」 「だ〜れが酔ってるっってひゅうの〜?」 「お前や。アウロラや。」 「酔ってないひょ〜。ほら、よく見てよぉ〜。」 「やっ、近いって。無理っ。」  顔を赤らませて、体をくねらす妖艶な彼女を直視するのは不可能だった。というか、近過ぎてもう既に心臓の脈動はピークに達している。 「無理ってど〜いうことなのぉ〜。ねぇ〜。」  ベタベタしてくるのは大変嬉しいが、いけない事をしているようで、いたたまれなくなる。 「こーらー。ちょっ、キャロル。なんとか......」 「ゆーとぉ〜。もう一杯ぃ〜。ね?」 「あぁ、あかんわこいつら。」  それから酒を二人から取り上げ、擦り寄ってくる二人に手を出すまいと、無心で大きな机にこれでもかと広げられた料理を食べ続けた。  暫く無我の境地で理性を保っていると、二人はこんこんと眠りについた。なぜか右腿にキャロル、左腿にアウロラが仲良く寝ていた。 「動けへんやないか......はぁ......」  ま、役得っちゃ役得か。  彼女らの愛らしく無防備な寝顔を少し眺め、ユウトもそのまま机に突っ伏して寝てしまった。こうして、激動の1日は幕を閉じた。
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