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孤独な天使の初めての仲間
「んん......いてて......なんや......?」
腰と足に重い痛みが走る。一体何があったのか。
眼に映るのは机、食べ残された料理、広い部屋。
そうやそうや、そういえばあの後アウロラの家来たんやった。
「んっ......んんっ......」
下を見れば、アウロラとキャロルが腿を枕に寝ていた。足の痛みの原因はこれだ。腰の方は椅子に座って寝ていたからだろう。
「やばいな......この光景は......」
アウロラもキャロルも深めに腿を枕にしているせいで、朝の整理現象の影響を受けている。これはなんとかして穏便に起こさなければならない。万が一暴発してしまっては首を括らなければならないだろう。
「一旦、深呼吸や。落ち着け俺。」
すぅーっ。ふぅーっ。 3回繰り返した。
「おい、キャロル、アウロラ、起きろ〜。」
心も体も落ち着いた所で、頰をペチペチと叩いて起こそうとする。が、もぞもぞと動かれてこれは不味い。
気合いを入れ、気を付けながら二人まとめて上体を持ち上げて椅子に座った状態へ戻した。しかしまだ寝ている。
「はぁ、寝坊助どもめ。」
先ほどのユウトと同じ体勢でそのまま寝ている。少し見渡すと、キッチンも併設されていた。
二人を起こさないようになるべく音を立てずに、昨日の残骸を片付けた。そして、余り物とキッチンに置いてあった食材で有り合わせの軽い朝食を3人分作った。
料理を皿に取り分け、綺麗になった机に運んだ。
「おい、いい加減起きんか。二人とも。」
「ん......あ、もう朝なの?」
「ふあぁ〜っ。眠い......もうちょっと寝かせてよぉ〜。」
肩を揺すり、覚醒を促す。アウロラは寝起きが良いらしい。キャロルの方はダメだ。
「おはようさん。よぉ寝れたか?」
「ん。まぁね。でも、私こんな硬い所で寝てた割には身体が痛くないわ。なんでだろ?」
眠たさを隠せない薄く細められた目を擦りながら聞いてきた。
「そりゃ、さっきまで俺の腿の上で寝てたからちゃうか? いや〜役得 眼福やったで〜。」
「え、そうなの? え......ふーん。そーなんだ。へー。」
プイッと向こうを向いてしまった。
照れてんのかなぁ〜可愛いなぁ、相変わらず。
「そーそー。ほら、お前はいつまで寝とるか。早よ起きぃ。」
「うーうー、やーめーてー、わーかったーからー!」
ガシガシと無理矢理揺り起こす。
「ま、とりあえず朝飯食おや。」
「あ、ほんとだ。いつの間に? 誰が?」
アウロラは今更気づいたようだ。
「さっき俺が作った。勝手にいろいろ使たけど、綺麗にしといたから許してくれ。」
「えぇ!? ユウトが!? はむっ。......美味しい......意外な特技ね......」
起き抜けのはずのキャロルは、それを耳にし、すぐさま朝食の一部を口に運び、信じられないと言った表情を浮かべた。
「ご馳走さまです。そうそう、ユウト。一度宮廷に顔を出さないといけないわよ。昨日の件でね。どの道呼び出されるだろうから、先に行ったほうが良いわ。」
3人で仲良く完食した所で、アウロラは宮廷に顔を出す提案をしてきた。
「えぇ〜。めんどくさっ! てかあの場所なんか嫌やわ〜。良い思い出ないし......」
それもそうだ。何故か死の予感がする程の殺気を当てられた因縁の場所なのだから。
「文句言いなさんなよ〜、ユウトさんや。」
「キャロル、なんや急に馴れ馴れしい。」
「仲間なんだからいいでしょ。もう疲れちゃったんだもん。丁寧に喋るの。」
キャロルは、机にぐだ〜っと突っ伏してそんな事を言った。
「だらしないやっちゃなぁ......」
「まぁまぁ、いいじゃない。キャロルさんなりの仲間の証なんじゃないの?」
「アウロラがそー言うんやったら構わんけど......」
キャロルは特に距離感が離れたり近寄ったりで何を考えているのかがよくわからない。
「アウロラも、私に敬語は使わなくて良いわよっ! 仲間なんだから!」
「ほんとに? ありがと〜よろしくね〜キャロル〜!」
立ち上がり、わいのわいのと二人で手を繋いでぐるぐると回っている。
「お前、仲間仲間って連呼してたら、友達おらん奴が友達出来てはしゃいでるようにしか見えんぞ。」
「と、友達......居ないんだもん......」
キャロルはしょんぼりとした表情を見せた。
「は? キャロルお前いつからこの世界におんねん。白髪の天使とかなんとか言われたんは関係あるんか?」
記憶が正しければ彼女の精神年齢は見た目の14歳くらいと反して、30年ほど此処で暮らしていると言っていた。友達の一人も居ないとはなんともおかしな話だろう。彼女の異名もアウロラや奇術師広く知られている様子であった。
「さ、30年くらいだけど......その名前は、いつの間にか勝手に呼ばれてただけで......もぉっ! いいじゃんそんな話! お城行こーよお城!」
「ま、今度ゆっくり聞かせてもらうわ。仲間、やろ。まだ話辛いんやったら今度でええわ。」
言いながら慌てふためいている彼女にの肩にポンと手をやった。
「......っ。うん。」
彼女は、にやけた顔を隠すように俯いた。
「ま〜たカッコつけちゃってまぁ。ともあれ、善は急げっ! 宮廷へ飛びましょう。」
アウロラが、片眉と同じ方の口角をあげ、彼の顔を覗き込んだ。
「惚れてまうやろ?」
「バーカ言ってないで、ほら。」
そう言えばそうだった。転移魔法は手を繋がないといけないのだ。それが必要条件なのか、彼女に限る話なのかは分からないが。
「へいへい。」
「わ、私も?」
「キャロルも。さ、早くっ!」
キャロルは彼女の手を取った。と同時に何故かユウトの手も取った。
「俺は別にいらんのちゃうん?」
「いいじゃん。不満なの?」
「いや、別にええけど......」
「じゃ、行くわよ〜。えいっ!」
んな掛け声で......
と思った瞬間にはもう既に宮廷の前だった。瞬きの刹那に景色が変わっているような感覚。やはり魔法──もとい魔導というのは凄いものだった。
「ぷ〜っ。すげ〜な〜。俺も使えへんかな〜。」
流石にアウロラの部屋を煙草臭くするのは憚られたようで、外に出た彼は、すぐさま煙草に火をつけた。
「頑張ったら出来るかもね。」
「わ、私も、出来るかな?」
「どーかな〜?」
談笑しながら宮廷を囲う壁を抜ける正門に向かった。
「アウロラ様!? それに白髪の天使......? あとは......件の煙草男......?」
門番が一行を見つけ、一人一人顔を確認してその度に驚いていた。
「なんや俺だけ名前もクソもない煙草男て......それと件って、なんや噂でも立てられてんか?」
「さぁ......知らないけど......」
「奇術師を倒した大英雄なのに、大した言われよーね。」
何のことやら、3人は分からなかった。
「奇術師を? お戯れはよして下さい。兎に角、宮廷へは入って頂いて構いませんので。どうぞ。」
「ええ、どうも。お勤めご苦労様です。」
ユウトは恭しく一礼し、アウロラに続いて壁を抜ける扉を超えた。
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「愛煙家の腰が低い男......どこかで......はっ!? か、彼はまさか......昨日の大手柄を挙げた煙草の男じゃないか!?」
暫くして、同僚の中で噂になっていた煙草の男と、街で噂になっていた氷の心を持った魔女と仲睦まじく同伴していた煙草の男が同一人物である可能性が高いことに門番は今更気づいたのだった。
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「失礼致します。」
「うむ。待っていたぞ。入るといい。」
何を言われるまでもなく、自然と背筋が伸びる。皇帝直々に入室の許可が降りた。
開かれた扉を潜り、アウロラは部屋に入って行く。それに、残りの2人も続いた。
「よくぞ参ったな。ユウト君、君は昨晩早速大きな武功を挙げたようだな。他の二人もご苦労だった。」
フォーマルハウトが労いの言葉を3人に掛けた。
「して、今回の件について3人には叙勲を行おう。加えてユウト君。君には別に褒美も用意している。この後、早速受け取って貰おう。客間に女神アクエリアスが待っている。そちらへ向かうように。
尚、叙勲式は1週間後、サダクビア闘技場で正午より執り行うものとする。以上。下がって構わん。」
「はっ。」
深く一礼し、部屋を出た。この世界で目覚めて2日目。いきなり勲章なぞ貰う事になってしまったユウトだった。
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