恨みは闇に眠る

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恨みは闇に眠る

「ふぅ......以外な弱点発見ね。まさか(くすぐ)りに弱いなんて。」 「いざと言う時はこれを切り札に対抗できるわ。」 「こんな強いユウトにも案外可愛い所あるんだね。」  クッキー、アウロラ、キャロルの3人は気が済んだのか、ユウト評論会を始めた。 「はぁっ......! はぁっ......! 幸せっ。じゃなくて......お前らめちゃくちゃやな......」  笑い疲れて起き上がることが出来ないユウトは、本音を漏らしつつも反論した。 「ユウトちゃん。本音、漏れてるんだけど?」 「くーちゃん、それは言わん約束やろ?」 「そんな約束した覚えないわよ。変態。」 「いやいや、そう言う事じゃなくて......な? アウロラ。」 「そう言う目で見てたんだ......変態ね。ユウトって。」 「そう言う目ってどう言う目よ? もし女として見るって意味やったら、それはそう言う目で見るなって言う方が無理や。いややったら、来世では余程のブサイクか男に生まれてくるんやな。」 「あ、そうだ。くーちゃん。ユウトね、あってすぐに胸を──」 「それあかんって!! あかんあかん!! わざとじゃないねんから!!」  ユウトは二人に良いように弄ばれていた。 「ま、疲れたから今日は帰るわ。じゃあまた明日ね、ユウトちゃん。」 「じゃあ、私も。また明日ね〜。」 「なんやねんお前ら......散々好き放題言うてそれか!! 帰れ帰れっ!! 暫く来るな。疲れたのはこっちじゃ。」  そんなユウトの返事も聞かずに、クッキーとアウロラはそそくさと帰っていった。 「はぁっ......なんやねんあいつら......」 「ね、私はどうしたらいい?」  キャロルが大の字になって寝転んでいるユウトの顔を覗き込んだ。 「あぁ〜。キャロル家は?」 「うーん......今まで家っていう家に住んだことない......ずっと当てもなくブラブラしながら生きてきたから......」 「はぁ? はぁっ......なんか聞いてて悲しなるわ......友達もおらん家もないて......」 「うぅ......言わないで......」 「まぁええわ。ここ住めや。広いし。」 「え?」  彼女は、大きな目をさらに大きく見開いた。 「いや、だから。ここ住みゃあええやん。部屋山程あるらしいし。いらんかったらええけど。」 「あ、いや、そうじゃなくて......いいの?」 「俺の家やぞ。俺がええ言うたらええねん。あかん言うたらあかんねん。わかったか?」  暴言のような物言いだが、なんとも優しい言葉だった。彼なりの気遣いなのか、照れ隠しなのかは分からなかったが。 「ぷっ......ドスの利いた声で言うことじゃないじゃん。意外に優しいよね、ユウトって。」 「アホ言うな。俺はいつでもどこでも優しいわ。ちゃうか?」 「ま〜そうかな。う〜ん。思ってみればそうかも。」 「まぁええけどな、なんでも。よろしこ。」 「よ、よろしこ? んっしょ。っと。」  ユウトは手を伸ばした。キャロルが両手でよいしょと起こしてやった。 「とりあえず......布団やら買わな寝れもせんな。買い物行くぞ。」  言いながら地面に置きっ放しの札山を収納魔法(ストレイジ・マギア)に仕舞った。 「養ってもくれるの!? 専業主婦ってこ──」 「しっかり働いて貰うっちゅうねん。彼女すら出来たことないのにいきなり嫁貰う訳ないやろタコ。アホ言うてやんと行くぞ。」 「素直じゃないな〜なんちゃって。」 「俺は嘘はつかん人間や。ついたことない。俺より正直で誠実で素直な人間はおらん。」 「もしほんとだったとしても、今ので嘘カウント1増えたね。」 「なんやと!? ちびっ子めが!」 「ちびっ子言うなちびっ子って! 馬〜鹿! アホ!」 「ガキの戯言は耳に届かず。憐れなり。」 「むきーっ!! 私はね!! ユウトより年上なんだよ!?」 「へー。ほんまか? お前中身も子供やん。」 「むむっ......」  そんな調子で買い出しに出た。 「ほれ、なんか欲しいもんあったら買ったるぞ。」 「え!? ほんと? これとこれと〜あとこれ!」 「はいはい。しゃーないやっちゃな。」  何だかんだ言っても、ユウトは甘い男だった。 「キャロル、塩と砂糖持ってきてくれ。」 「はーい!」  ちょこちょこと小走りする姿は、なんとも言えない可愛さがあった。あざとさではない、自然と出た可愛らしさ。 「これでいい〜?」  それに加え、基本的に従順で、本当に子供のようだった。彼女は一体どんな30年を過ごしてきたのか。 「えらいえらい。よしよし。」 「ん〜、悪くない。」  将来子供が出来たら、なんて妄想をしながらそんな親子プレイに洒落込んでいた。  そんな調子で、ベットや、食料、食器などを買い込んだ。キャロルに色々買ってやったが、50万ほどの出費だった。多少贅沢しても全く問題なさそうだ。  ちなみに、ベットと布団が出費の大半を占めていた。 「よし、帰ろか〜。」 「うんっ。お腹すいたよー。」  帰る頃には、仲良く手を繋いでいた。  転移魔法(テレポート)を使えば一瞬だが、それでは味がない。人間には足が付いているのだから歩くのが道理だ。  キャロルの体に障らないように、煙草も控えていた。ニコチン以外に満たしてくれるものがあれば吸わずともイライラしない事が分かった今日のこの頃であった。 「ふぅっ! 疲れたな〜。」 「私は......楽しかった。疲れてない。ユウトは、楽しくなかった?」  なんともあざとい。あざといが、本音なのだ。建前なく、彼女自身の本懐。 「かわいいなぁ〜お前!! 楽しくなかった訳ないやろ。そんな悲しそうな顔すなや。わろてた方がええぞ。せっかく顔もええねんから。」 「ちょっちょっと、ムニムニしないでよ〜。」  頰をこねくり回した。所謂猫可愛がりという奴だ。 「いらんかったら抵抗すればええやろ〜。あかん。抑えられん。もうちょっと。」 「うゃうゃうゃ......」 「俺が死ぬまでは一緒にいたるから、もうさっきみたいなしょうもない事聞いたりすなよ。」 「アウロラにもそんな事言うんでしょ? 女(たら)し。」 「俺はもう一回死んでるようなもんや。だから思った事は言うんや。勿論嘘は言わんぞ。基本。多分。そう思われる。」 「もうっ。別にいいけどさ。」 「まぁそう言うなや。飯にしよ。腹減ってんやろ?」 「う、うん。腹ペコ。」 「急いで作るさかい待っとけ......いや、キャロルも料理覚えた方がええな。手伝ってくれ。」 「了解っ!」  ビシッと敬礼をした。一々可愛い。 「では調理場に参る。作戦Cで行くぞ! キャロル隊員。」 「はいっ! ユウト隊長!」  小芝居をしながらキッチンへ向かい、まずは食材を切る。猫の手と呼ばれる安全な手法を指導して見せ、キャロルにやらせてみる。するとどうだ、上手くこなしている。割と筋は良いようだ。  本当は一度作って見せて、次から少しずつやらせるつもりだったが、調味料や火加減、煮込み時間を教えながらキャロルに任せることにした。  まずはにんじんと玉ねぎ、じゃがいもを軽く炒めさせた。ここを怠ると煮崩れして台無しになる。しっかりと火を通し、玉ねぎの色が透明に近づいてくれば頃合いだ。そこで火を一度止め、小麦粉を投入して混ぜる。次に鶏肉を茹で、アクをとる。そこに野菜を入れ、牛乳をぶち込む。あとはゆっくり煮込むだけ。  インスタント的な調味料、具体的に言えばコンソメやルーの素などがなかったので、取り敢えず、と言ったところだ。殆どキャロルに任せたが、殆ど滞りなく進み、完成した。  取り敢えずはホワイトシチューの完成だ。味は少し薄いかも知れないが、仕方がない。 「で、でき......た!?」 「おう。初めてにしては上々や。よーしよしよし。早速食べるか。」 「うんっ!」  さぁ皿に移して食卓に移動しようとした、──その時。  ガチャン!! 皿が落ちる音がした。ただそれだけなら何も驚く必要はない。 「ん──!? んんんんー!! んっ!?」 「ちょォっと失礼するぜェ......? 新参星冠者(クラウナー)ユウトさんよォ......ククク......」  その突然の来訪者の正体に、只々驚愕せざるを得なかった。
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