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持つべきものは仲間
キャロルに頼んで二人の命を繋いで貰った。勿論、奇術師念は念のため縛っておいた。何度も何度も殺されかける度胸は流石にないだろうが、念には念を、だ。
「おい、起きろタココラ。」
「ん......何がどうなって......」
早速だがゾイドを叩き起こす。火がもうすぐ外にも分かるほどに燃え上がる。早く済ませないとといけない。
「お前自分で何したか分かってるんか?」
「あぁ......負けたんだろ? 勝てるわけねぇや。滅茶苦茶じゃねえか。」
「そんなこた聞いてへんわ。お前奇術師逃してんやろ? 極刑は免れんで。」
「仕方ないだろ。因果応報という奴だ。」
「仕方ないねぇ......? ほな死にたいんか?」
「いや......それは......」
「なぁ、お前の事今回は見逃したるから、この先ちょっと言うこと聞いてくれるか?」
「なっ!? ......どう言う事だ?」
突然の提案に、ゾイドは驚嘆した。
「お前を警備隊にパクってもらうのは簡単かも知れんが、まぁ弱み握ってる人間が内部におったら何かと都合がええやろ?」
「スパイになれと?」
「まーな。別に俺はこの国の敵ではないからスパイってのは違うけど、情報線は多い方がええからな。」
「え、ユウト、こいつ絶対裏切るよ? 国すら欺いたんだから。」
キャロルは服の裾を引き、懸念を呈した。
「こんな目に遭ってまだ裏切れたら、それは凄い偉業や。そうなったら素直に──、な? ま、要らんこと企んだら痛い目見るでって話。お分かりかな、ミスターゾイド?」
「──ハッ。殺してくれた方がマシだったかもな。流石にこの状況じゃあ断れない。何卒お手柔らかに、宜しくお願いします。ユウト様?」
ゾイドは、ユウトを見て態度を翻し、恭しくお辞儀をして見せた。
「コロコロ態度変えて......ぜんっぜん! しんよー出来ない......なんでこんな奴を......?」
「まぁこう言うのが後々に効いてくるんや。草の根運動は大事やぞ。」
「ユ、ユウトは......全部打算で動いてるの?」
寂しそうな目をして問うてきた。恐らく今の繋がりさえも打算の上に成り立っているのかなどと思案しているようだ。
「アホな事抜かすなや。ほんで、そんな顔すんなって。な?」
「うん......」
すり寄ってきた彼女を引き離すことは出来ず、肩に手をやり抱き寄せた。
「おいおいィ......イチャついてるとこ悪りィがよォ......俺ァどうなるんだよォ......?」
「知るか。お前はもう庇いきれん。全部背負って断罪されてくれ。」
「あァ......!? そうなりゃ聞いた事全部吐いちまうぜェ? 良いのかァ?」
「お前の話なんか誰が信じんねんアホ。もし殺されへんかったら使たるわ。そん時は......──ボロ雑巾も涙目のものごっつい荒い使い方を約束したるでぇ!!」
「クソッ......アホじゃねェのが腹たつぜェ......力だけの脳筋だったら簡単だったのによォ......」
彼は、悔しそうに歯ぎしりしていた。
「どんなアホでも今の誘いは乗らんわ。アホはお前やねん。恥ずかしい。大体、ゾイドの話に乗って檻から出た時になりふり構わず逃げりゃ良かったやろ。」
「──んな訳にァ行かねェだろォ......ヤラレっぱなしじゃあなァ......こっちだって50年はこの世界の裏社会を背負って来てんだァ......ちっぽけな矜恃を捨てたら俺じゃァねェんだからよォ......?」
奇術師は凄みを感じさせる声色でそう言い放った。
「あぁそうかい。あの時謙ってたのも一矢報いる時を伺ってた訳か? でも残念。お前はもう詰みやな。」
「クソがァ......ククク......だが忙しくなるのはこれからだなァ......抑止力を無くしたこの世界はァ......必ず覇権争いが始まるぜェ? まァ、精々頑張る事だなァ......」
彼はハァッっと溜息一つ吐いて、空を仰いだ。
ふと、空を見ると煙がかなり上がっていた。
「じゃあそういう事で。もうそろそろ警備隊なり来るやろ。」
「そうだね。と言うか早く来てくれないと全部灰になっちゃうよ。」
だが、5分、10分、15分。警備隊どころか、野次馬も来なかった。駆けつけてきたのは──。
「ちょっと目を離しただけでコレ!? って、奇術師いるし!! さっき逃げ出したって報告あったばかりなのに......仕事早いわね......」
「あぁ......綺麗に燃え上がっちゃってまぁ......お金は無事なのよね......? ん? ゾイド? なんでこんなところに?」
アウロラと、クッキーだった。どうやら奇術師脱走の報せは街中に行き届いているようだ。道理で誰も外に出ていない訳だ。
「奇術師は飯作ってたらいきなり来た。ゾイドは追いかけて来てたんや。お陰で、まぁ特に危なげなく倒せましたとさ。
警備隊の落ち度やのにあいつら何してんの? 火も消さんと......」
当事者以外にはそう見える筈だ。一番無難な嘘を交えておいた。まだ彼女らに話すには早いとも考えていた。
「へぇ? 柄じゃない事もするのね? まぁいいわ。今その犯人探しに躍起になってるわ。何より体裁が大事みたいでね。どの部署の誰が責任を取るのかー! って。」
ゾイドを疑念の目で射抜いた。が、証言はユウトから取っているので、彼女はあまり突っ込まなかった。
どうも、目の先のたんこぶよりも名誉が気になる連中なようだ。にしてもこんな大火事も、住民の保護もしないとは、一体どんな方針なのか。甚だ疑問だった。
「アホらし。アウロラかくーちゃんこの火消せるか?」
「くーちゃんがやりまーすっ!」
「一人称名前て......」
元気よくクッキーが名乗りを挙げた。自信ありげなようだ。
ゾイドは、奇怪な表情で彼女を見ていたが、今はどうでも良かった。
「滝落とし・瓶っ!」
「うわ、なんちゅう緊張感のない詠唱やねん....」
気の抜ける技名とは裏腹に、威力は絶大だった。バケツをひっくり返すどころか、滝のような勢いで水が降り注ぐ。少しして、水圧で家が崩れ、無事鎮火した。が。
「恐ろしいぐらい水浸しやぞ......」
「てへっ!」
辺りは、膝下に迫ろうとする程の冠水状態になっていた。さながらダムの放水のような魔法の威力は質も量も絶大だった。
「ゴボボボボボ......ぷハァッ!? はァ......はァ......水責めとはまた酷い事をしやがるなァ......」
奇術師は手足を縛られていたため、無様に溺れかけていたので、顔を引っ張り上げてやった。
「ンなとこで寝てんのが悪い。な、くーちゃん?」
「うんっ! そのまま死ねば良かったのにねっ!」
「辛辣やなぁ......」
その後、クッキー、アウロラ、キャロル、ゾイドと共に、無駄な事もつゆ知らず、犯人探しに躍起になっている警備隊の連中に奇術師を引き渡し、偉く感謝された。
お前ら仕事せえや。使えへん奴らやでほんま。
などと思ったが、今は口に出さなかった。腐っているのは恐らくここだけではないだろう。もっと内部事情を知らねばならない。そのための布石だ。
「とりあえず、ゾイドは帰っていいぞ。週に一回顔見せに来る事。それ以外普通にしとけ。あと、あんまりはしゃいだらお灸据えに行ったるから覚えといてな。」
「わかりました。肝に命じておきましょう。ボス。」
「ボスて......まぁええけど。頼んだぞ。」
こっそりと指令を言い渡し、ゾイドを帰した。
「ユウト〜、今晩寝るところないよ......?」
「ほんまやな。腹も減ったし...... はぁっ。 ......キャロルの初めて作った真心シチュー食べたかったなぁ......」
もう夜もいい時間。なのに寝るどころか飯にすらありつけていない。お金は収納魔法で収めていたお陰でなんとか全額残っていると言う事だけが救いだった。
「もうっ。仕方ないわねっ。私の家に暫く泊まれば良いじゃないっ。」
「ええの?」 「やった〜!」 「じゃ、くーちゃんもついでに泊めて〜!」
「くーちゃんは......まぁいっか。じゃ、私の家でお泊り会だー!」
「「「おー!」」」
こうしてなんとか野宿は避けられた。持つべきものは友......いや、仲間だと痛感した、そんな一日だった。
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