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貞操の危機
部屋に入るなり、食事は直ぐに来た。割と豪勢な食事だった。
それを少し談笑しながら食べ終え、そこからこの世界について教えてもらう事にした。
「何から話そうかな......ユウトは何が聞きたい?」
アウロラは、漠然とした問い掛けをユウトに向けた。
「ええ、そうですね......魔道やら、魔法やら魔術の仕組みやら......他にはこの国の事とか......」
この世界の事を聞きたいのは山々だったが、いざ何が知りたいのだと問われると、なかなかに難しいものがあった。
「まぁ、何を知りたいって言われても難しいわよね。あと、ここにはわたし達しかいないし、そんなに畏まらなくてもいいわよ。」
「ありがとう。じゃあそうさせてもらいま。」
そうして語られた内容は、こうだった。
まず、魔導というのは、大気中や、体内から作られる魔素を魔力って言う力に変換して、魔力を更に想像イメージや理論セオリーによって現象に変える事の総称。
魔導は大きく二つに分けられて、一般的に魔力を想像イメージに依って現象にするのが魔法。理論によって形成されるのが魔術。この辺りはややこしいので、もし勉強したいならまた教えてくれると。
──そしてこの国について。この国は、200年前までは小さな王国だったそう。その頃は国の名前も違っていて、今のアクエリアスと言う国名になったのは、150年前だそう。
その150年前頃に女神アクエリアスがこの世界に来て、当時、他の国との戦争で壊滅状態だったこの国を立て直すことに貢献したそうだ。所謂、一宿一飯の恩と言う奴らしい。
ただ、当時の暴君と言われたその国の王は、その混乱に乗じて、市民の手により殺されてしまった。その為、国名を変え、新たな体制で始まったのだ。
──それがこの国が、アクエリアスと言う国名になった由縁と言うことだった。
「──とまぁ、こんな感じかな。わかった?」
軽く首を傾げ、ニコッと笑いかけて来た。
「わかりやすかったけど......アクエリアスさんってそんな凄い強いってことなん?」
「君が来るまでは国内で敵う人は星冠者クラウナーを除いて居なかったでしょうね。あと、自覚無いと思うけど、ユウト今暫定国内最強ね。」
国内最強て......大雑把な。この国の規模もわからんし、喜んでええんか?
「へ......へぇ〜。俺って凄いの?」
「力の面では凄いよー。それだけで国を変えるような大きな流れを起こせるくらいには。」
「えー、煙草ろくに吸えへんやん......」
死んだ挙句この仕打ちかっ!! どこへ行っても喫煙者は嫌われて......
「いやいや。それは力の制御が出来てないからでしょ。訓練すれば、もっとオンオフでの力のギャップは操作できると思うわ。アクエリアスさんもそうしてるし。」
「まじか! ええやんけ。早速訓練しよっと〜。」
煙草の火をつける方法は学んだ。発火セットを使い、アクエリアスに習った通りに力を流す。
「ウワッアッツゥ!! なんじゃこりゃ!!」
小さな火でなく、結構大きめな炎が出た。
「ちょっと魔力流しすぎ!! 火事になっちゃうじゃない!!」
どうやら力みすぎたようだ。
「すまん......じゃ、気を取り直してもう一回。ウワッツィ!!」
再び炎が上がった。
「何をしてるのよ......ちょっと貸して。」
アクエリアスと同じように演じて見せてくれるようだ
「いいけど、その......良いの?」
そう、気がかりなのは目の前の美少女との関接キッスだ。流石に悪い気がして、遠回しに聞いてみた。
「何が?」
「いや、なんもない。」
その純粋な眼差しに負け、何も言えなかった。
「まず、すこーしだけ魔力を流すの。それと、ナメクジが進むくらいのスピードで、ゆっくりね。
頷きながら、ナメクジて.....例え独特やな.....など思っていた。
「そこから徐々に調整して、丁度いい力の流れを探るの。」
彼女の持つ石に、少しずつ火が灯り、徐々に大きくなっていく。
「すぅ〜......ふっ......んんっ......コホッコホ......うぅ.....不味い。」
彼女はアクエリアスのように煙草に火をつける事に挑戦したが、どうやらそれは失敗に終わった。
「大丈夫か!?」
すぐに駆け寄り、背中をトントンと叩いてやった。
「う....うん....なんとか......」
言いながら火のついた煙草と発火セットを返してくれた。
「ちゃうかったらごめんやけど、もしかしてさ、アクエリアスさんの真似したかったん?」
「なっ......なんでわかったのっ!?」
「な、なんとなく?」
特に理由はなかったが、どうもアウロラはアクエリアスに対して態度が少し違うように見えたし、憧れのお姉さん的なアクエリアスの真似をしているのかなと思っただけだった。
「勘まで鋭いなんて.....末恐ろしいわね、ユウトは。」
正直誰でも気づいたと思うけど.....
「いやいや、偶然偶然。」
言いながら煙草を吸った。
──やはり、視界に映る全てはスローモションになり、力が溢れてくる。
だが、どうにか効果を薄れさせる為に、力を抑え込むイメージをした。
少しずつ景色が通常の速さを取り戻していく気がする。もっと強くイメージした。
いいぞいいぞ〜。折角の至福の時間がこうも落ち着けへんと困るんや〜
「──に? 凄い洞察力を持ってるとか?」
時間が戻り、声が聞こえて来た。
「あぁ、すまん。今能力発動してて始めの方全然聞こえへんかった。」
「あ、そうなの。と言うか、どう言う能力なの、身体強化だけじゃないの?」
「なんか周りがスローモションになる。今はなんとか抑えてる感じ。」
ぷぅ〜っと煙を吐いた
「煙い......コホコホ 凄いわね。コホ そんな んんっ コホコホ 時間がゆっくり流れるなんてっ」
どうやら煙草の煙が苦手なようだ。
「悪い悪い。とりあえず一回消すわ。」
灰皿があったので、グリグリと押し付けて火を消した。
「ごめんねっ。コホ んんっん。どうも苦手みたい。こんなに近くで煙を浴びたのは初めてだから。」
彼女は咳払いをしてそう続けた。
「話が脱線したわね。まず、魔力の操作が出来ないと、その煙草の火も満足に点けれない訳だし、これで練習しましょう。」
また同じような石ころが手渡された。
「なにこれ?」
「それは、光魔石だよ。魔力を流すと光るって言う単純なもの。さっきのは火魔石。火が出ると危ないから、光でやってみましょ。」
なんやら便利なもんやねんなぁ魔力ってやつは。
「ふぅ〜っ......」
目を瞑り、少しずつ魔力を流していった。
「ひぎッ!! 目が焼けるっ!! ストップストップ!!!」
目を開けると、太陽を直接見たかのような凄まじい光が目を焼いた。
「ぐあっ!! 目が......目がぁ......っっっ!!」
まるで何か破滅の呪文を唱えられたかの如く目を押さえつけ、二人して転がりまわった。
ドタドタドタ ガチャ!
「ちょっと! 今の光は何!? って、二人ともなにをしているの!?」
アクエリアスが客間へやってきた。どうやら光は部屋の外まで漏れ、異変を知らせたようだ。そこで状況をすぐさま察した彼女が、この部屋へ来たと言う事らしい。
だがその異様な光景に、流石の女神も呆然とせざるを得なかった。
「ユウトが!! ユウトが光魔石に魔力を馬鹿みたいに注ぐから!!」
「ごめんなさい!! でも、俺かて加減してるつもりやねん!! そんなはじめっから上手いこと行くかいな!!」
「こんな事には普通ならない!! わざとでしょ!!」
「わざとやないやい!! 俺かてまだ目見えへんねんぞ!!」
目を瞑ったまま、お互い少し違う方向を向いてぎゃーぎゃーと怒鳴りあっていたのだ。
「ユウト君、アウロラちゃん、とにかく落ち着いて。側から見たら凄い光景よ......?」
その一声に、二人共一旦口を閉じた。
「なにがあったかは想像つくけど......にしても、二人はこの短時間で怒鳴り合えるような仲になってたの?」
「違いますよ、アクエリアスさん。ユウトは大馬鹿なんですよ! 私だってこんな大声張りたくないですよ!」
「俺は言われた通りやっただけですよ。どこかにいるお転婆娘に言われた通りにね。」
「だっ、誰がお転婆娘なの!? ひどい!」
「どっかの誰かさんの事や。別にアウロラの事は言うてへん。自覚あるからそんな心に刺さるんやろ!? 違うか!?」
「アクエリアスさん〜、ユウトがいじめてくるんです〜どうにかしてくださいよ〜」
まだ目が見えないのか、その場でおろおろしていた。
「仲がいいのは良いことだけど、あまり暴れちゃだめよ。仮にも宮廷なんだから。 じゃ、お邪魔虫は去るわね。」
コツコツコツと足音が遠のいていった。
「アクエリアスさん〜......」
「ごめん、言いすぎたわ。とりあえず目見えるまでおとなしくしとこ。また怒られるわ。」
「そうね。私もごめんなさい......でもユウトは魔力の扱いに慣れないと、危なっかしくて一人で外も歩かせれないわ。」
俺は危なっかしいガキか......
「そ......そやな......練習付き合ってくれますか、アウロラ先輩。」
「ん〜。構わないけど......また明日ね。今日はもう疲れたわ......」
「そうやな......今日は色々ありがとう。」
言いながら、椅子まで戻ろうと足を前に出したが、何かにぶつかって転けた。
バタッ
「痛っ......ちょっ、なに!?」
「え? うわっ! ごめっ」
アウロラが下敷きになってしまった。
やらかした〜......ん?......なんやら柔らかい床やなぁ......
「ひぃっ!? どっどこ触ってるのよ!!」
「はぁ!? どこって床や......ろ?」
え、そんなベタな......
思いながら、手を開閉させる。感じたことのないような柔らかさがそこにはあった。
「んっ......ちょっとっ......」
──あ〜、終わったなこれ。この世界の人生早速終わったわ〜
感触を確かめ、すぐさま起きようとするが、上手く体を動かせず、再度覆いかぶさってしまった。目がまだよく見えないからだ。
「は......早くどけてよ......」
「わかってるけどっ、上手いこと立てへんねん......」
二人してもぞもぞと動き、なんとも言えない雰囲気になる。
「ちょっと〜、お二人さん、流石にまだ早いんじゃないかしら?」
どこかへ行ったはずのアクエリアスの声がした。
「!? 助けてください!! アクエリアスさん!! ユウトがどさくさに紛れてむ......胸を!!」
「もう、いつまで経っても目が離せないわね、アウロラちゃんは。」
後ろから脇に腕を刺され、ユウトは持ち上げられた。
「うわ、力持ちですね。ありがとうございます。」
そのまま椅子まで運んでくれた。
「どういたしまして。で、感想は?」
「柔らかかっ......え?」
「だそうよ、アウロラちゃん。」
やられたぁ〜!!!
「なっ、やっぱり!! 変態!! 痴漢男!!」
胸を揉まれた彼女は床に寝転びながら叫んでいる。
「わざとじゃないって!!」
「どんな偶然よ!! このっアホユウトー!!」
その日は、そのお転婆娘をアクエリアスが連れて帰り幕を閉じた。
やっばいわぁ〜......マジで首飛ぶぞこれ......この国でも痴漢は罪に問われるんかな? いや、罪に問われへんくてもあかんよなぁ......
・・・、柔らかかったなぁ......
その感触を確かめながら、眠りに就いた。
また、彼女は──
初めて胸......揉まれちゃった......変な声出しちゃったし......明日からどう顔を合わせればいいんだろ......
でも、私は悪くないし、堂々としてれば良いのよね!! うん。それで良い。それが良いはず!!
彼女は、その夜、悶々としてよく眠れなかった。
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