嫌よ嫌よも好きのうち

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嫌よ嫌よも好きのうち

 初の女性の柔らかさを体感した次の日。 「ちょっと、いつまで寝てるの?」 「うーん......あと5......いや10分......」  誰や.....起こしに来とるんは......おかんか? 「ユウト! もう朝よ!!」  いや、俺一人暮らししてたよなぁ......。じゃ、夢か...... 「もうっ、寝坊助起きろーーっ!!」  ──せや。もうあの世界の俺は死んだんやった。 「うるっさいなぁ!! 誰や!? .....ってあ.....アウロラさんでありましたか......ご機嫌麗しゅう......ございます.....」  胸を揉んだ罪への制裁が早速食らわせられると思い、変に畏まってしまった。 「何? その態度。昨日の事は......その......わっ、わざとじゃないみたいだし? 忘れましょう? ね? お互いのためにも。」 「はい!! 一生ついていきます!! アウロラパイセン!!」  忘れられるわけないやろ!! あかん、思い出したらjrが元気になってきた...... 「ぱ......パイって、忘れてないじゃない!! 馬鹿!!」  パンッ 「ぐへっ」  必殺のビンタを食らった。 「いや.....そういう意味じゃないって。パイセンっていうのは、先輩をふざけてひっくり返しただけ......」 「パイパイパイパイうるさい!! もう知らない!!」 「いや、待ってくれ!! ちょ、アウロラ!!」  そんなパイパイ言うてへんっちゅうねん!! 「──なんてね。昨日のお返し。ちょっとは反省した?」 「お返して......まぁ俺が全面的に悪かったしな.....猛省しております......」  どんな意趣返しやねん......忘れようて自分が言うたんちゃうんか。まぁええわ。ビンタは痛かったけど、この美少女のあの感触は......お釣りくるでぇ!! 「なら良し! さ、朝御飯にしましょ。」 「うーっす。」  朝食を食べながら。 「今日はどうすんの? 特に用事なし?」 「まぁ、用事はないけど、やることは沢山あるんじゃない? ユウトはお金もないし、身元を保証してくれる人もいないし、魔導もろくに扱えないし〜......ね?」 「事実やけど傷つくわ〜......己の事ながら恥ずかしいわ〜.....」  まだまだ言い足りへんけど、こいつ中々可愛そうやから言うのやめといたろって言う京都のねちっこい女のような思考が感じ取れる......いや、流石にないか。アウロラは純情お転婆娘や......そこまで性格いんでへんか。 「でも大丈夫。宮廷魔導師である私が付いてるんだから。お金も、身元も、魔導の練習も心配ないわ。」  あ、男をダメにさせるタイプかもな、この子。  無自覚の過剰な慈悲に、思わず彼女の将来が心配になってしまった。 「お金はいずれ返すわ。考えてる事も色々あるし。」  なんせこの世界はまだ発展途上だ。言うならば戦前かそれ以下の水準。魔導というアドバンテージ以外は彼の住んでいた世界に遠く及ばない。  情報の垣根がほとんどなくなっていたあの世界で、暇さえあれば人が積み上げて来た叡智が詰まった機械に触れていたのだ。  一回死んだようなもんや。ほんなら怖いもんはない。俺の持ちうる情報、知識総動員させてこの世界で成り上がって......    ──この俺が一世を風靡したろやないか......  静かな野望の火はメラメラと燃えていた。 「なにか企んでる悪ガキみたいな顔しちゃって。ま、良いんだけどね。」 「悪ガキて......」 「まずやるべき事は......そうね。街を散策してみましょうか。色々見て、この世界の常識とか知った方が良いんじゃないかな。そっちの方が口で延々と説明するより早いし。」 「ええやん。それいただき。」 「いただきもなにも、連れて行くのもお金出すのも私なんだけど。」 「はい......すみません......ありがとうございます......」  ほんま情のうなって来た......惨め過ぎる...... ***************************  そうして、今日やる事は決まったので、街へ繰り出した。 「おぉ......改めて見たら、どっかの世界遺産みたいやなぁ......」  壮観だった。一定の高さに揃えられた石造りの建物の群れは、雑多さを感じさせない上品さがあった。街を行き交う人さえも、皆上流と言う言葉がよく似合う身なりをしていた。 「世界遺産ってなに?」 「世界の遺産。」 「もうユウトにはなにも聞かない。」  プイッと分かりやすくそっぽを向いた。 「うそうそ。歴史的で芸術的な建てもんの事! なんか世界遺産を定める連中がおって、そいつらが勝手に決めたきれーなとこ。な、怒らんとってぇな?」  なにをこんな必死になっとるんや俺は...... 「初めからそう言えば良いのよ。ちゃんと言えて偉い偉い。よしよし。」  子供のように頭を撫でられた。 「はぁ、どうもです〜......ってアホか!! なに晒しよんねん!! わりゃガキか!!」 「せっかく褒めてあげてるのに。素直に喜んだら?」 「おのれ俺で遊んどるな......許せん......」  怒りがふつふつと湧いて来た。 「無一文。」  アウロラの口撃。 「うっ......」  効果はバツグンだ。 「目潰し。」  アウロラの口撃。 「そっそれは......」  効果はバツグンだ。 「セクハラ。」  アウロラは必殺技を繰り出した。 「アウロラさーん!!それ言わんって言いましたよねぇ〜!!??」  膝を着いた。アウロラの完全勝利。 「飼い主の手を噛む犬には躾が必要なのよ。」 「俺は犬ですかい......」  アホの子やおもたら狡猾な手を使う......これが飴と鞭か? 「比喩表現よ。ユウトは人間でしょ?」 「んなこたわかっとるわい!! どこまでアホにしようっちゅうねん!!」 「セ......」 「もう何も言いません......言えません......」  おりゃぁもう泣きたい......何をええようにやられとんねん......こいつが男やったら遠慮なしにしばき回してるところやのに......こいつは寄りに寄って絶世の美少女......そう言う変な癖に目覚めたらどない責任取ってくれるんじゃ...... 「おいおい、兄さん、アウロラ様に尻に敷かれてんのかい? 羨ましいねえ、こんな美女に気に入られてよ。」  そんなやりとりをしていると、その辺にいたおっさんが話しかけて来た。 「あ? なんじゃ己 おのりゃ? 俺は虫の居所が悪いんじゃ、痛い目見んうちに失せんかい。」 「なんだ、このチンピラは? アウロラ様、何故このような下劣なものとご一緒にされているのですか?」 「この子は悪い子じゃないんだけどね〜。柄が悪いのよ。どうも。」  誰のせいじゃ誰の!? 俺は普段からこんなんちゃうの己がこの世界で一番知っとるやろが!!  思っていると、「セ」と言う口の形をした。 「なんてね!? 冗談ですよ叔父様。ちっと迫真の演技すぎました?! 僕は凄みがなくて、ちょっと練習してるんですよ〜! 凄みの出し方!!」  道化師ピエロか俺は!? 頭逝 イっとる思われたらどないすんねん!! 「は、はぁ。」  ほれみろ!! こんないきなり豹変したらそーなるわい!! 「ね? 悪い子じゃないでしょ?」 「そ......そうですね。では私はこれで。」  老人はそそくさと去っていった。 「めっ! ダメでしょ。いきなり知らない人に喧嘩売ったら。」  頭をポスッと叩はたかれた。 「ぐぐぐぬぬぬににくい......そうやな......」  屈辱のあまりよく分からない唸り声を出していた。  めっ! とちゃうわ!! もう死にたい!! 何が悲しくて公衆の面前でこんな羞恥プレイ受けなならんのじゃ!! 「ほら、ちゃんと謝れたらよしよししてあげるわよ。」 「はい、すみませんでした。二度としません......ってふざけんな!! あの、ほんまにもう......勘弁して下さい......」  深々と頭を下げた。  ほんまにこれ以上やられたらこの俺が男泣きしてまうわ...... 「よく言えました。よしよし。」 「ぐぎぎぎぎぎ......ありがとうございます......」  話聞いとったんかこのアマァ!! 絶対いつか復讐したるからな......可愛いからってこのユウトは容赦せんぞ!!  周りから痛いほどに視線を感じる。どんな目で見てるかなど容易に察しがつく。死にたかった。  ──だが、周囲の目はユウトの予想の遥か斜め上。つまり、ユウトは全く察せていなかったのだ。 「まずは〜、ユウトの原動力であるところの煙草を補充しないとね!!」 「......はい。」 「元気がないぞ〜。」 「はい!!!! どこまでも着いていきますとも!!!」 「うるさい。」 「ひぎぃぎぎぎいい......ずびばぜん......」  ほんまに涙ちょちょぎれるわ......ぐすん。  しかし、どこか楽しげな彼女に、心の底では本気で怒れない自分が居た。 「行くぞー!」 「お、おー!」  凸凹コンビは煙草屋へ向かった。 ──────────────────────────  ユウトへと突き刺さっていた周囲の目は、こうだった。 「あの氷の心を持った魔女(グラギエス・フィーリアレーギス )が男と仲睦まじく話しているぞ......」 「あり得ない......さっき話しかけに行った者とも普通に話していたようだし......一体何があったんだ......?」 「仲睦まじくしている男は一体何者なんだ......!?」  なんとも、現実は想像よりも斜め上を行く結果となっていた。 ────────────────────────────
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