魔女の心の氷解風説

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魔女の心の氷解風説

 宮廷を出て、益体のないやりとりを交わしつつ、街を歩き、やっとこさ第一の目標である煙草屋へやってきた。 「どうも〜」 「ア、アウロラ様! これはこれは、どう言ったご用件で?」 「私じゃなくて、この子。ユウトが愛煙家みたいでね。美味しい(?)奴をお願いするわ。」  やっぱり顔広いなぁ......いや、顔は小さいけど。  心の中で感心し、自分に突っ込んでいた。 「おう、兄ちゃん、この御仁とはどう言った関係なんだ?」  少し離れた場所で、肩をがっちり掴まれた。 「まぁ、友達っすかね。あはは。」  友達かは分からなかったが、他人ではないので、そう言っておいた。 「氷の心を持った魔女(グラギエス・フィーリアレーギス )が友達......それも男と来た。どう言う風の吹き回しなんだ......?」  氷の心 グラギエス......? どこがや? 「氷の心を持った魔女(グラギエス・フィーリアレーギス )? アウロラが? 結構優しいっすよ。可愛いし。」 「そりゃ顔もスタイルも抜きん出てるがな......まぁいい。ありがとよ。煙草の好みは? 辛いのか、甘いのかどっちが好きなんだ?」 「甘い香りのが好きっすね。」 「よし。いい事聞けたしサービスしてやる。また無くなったらここへ来いよ。」  そう言い残して、店の奥へと去っていった。 「優しいし可愛いって? あんなに反抗的な態度とってた癖にっ。」  聞いとったんかい......抜け目ないな......  心なしか声色が弾んでいた。 「可愛いし、優しいし、柔......んんっ! まぁ事実やからな。俺は嘘は吐かん人間や。アウロラは可愛い!優しい!胸も......。それより、氷の心を持った魔女(グラギエス・フィーリアレーギス )って?」 「心の声漏れてるけど......まぁいいわ。それは私に付けられた異名。──嫌いだから二度と口にしないで。」  初めて冷え切った鉄のように冷たく鋭い声が発せられた。 「なんや、案外可愛いとこあんねんな。顔以外にも。」 「なっなによ! そりゃそんな事言われたら誰でも嫌でしょ?」  ま、そりゃそうやけど。 「いや、やっぱアウロラの事は嫌いになれんなってな〜。」 「──っ。わ、私も、ユウトは嫌いじゃ.......ない、けど。」  めっちゃ汐しおらしいやん......そんな顔もするんかい。惚れてもうたらどないすんねん。 「ツンデレかっちゅうねん! ま、氷の心を持った魔女(グラギエス・フィーリアレーギス )やろうがなんやろうが、俺は気にせん。言わせたい奴には言わせとけ。せやろ?」 「ツンデレって何!? そこの所詳しく!!」 「いや、ええ事言うたってんのにそこ!? ツンデレってのはなぁ。ツンツンデレデレの略称でな〜」 「デレデレしてない!! ツンツンもしてない!!」 「しとるやないか! ツンツンツンツン突いて来やがってからに。そうやもたらデレデレしやがって。」 「してない! してないったらしてない!!」 「してました〜。見ました聞きました〜。「ユウトの事は私も嫌いじゃないっウフ♡」って言ってました〜。今さっき言ってました〜!!」 「そんなこと言ったら、ユウトなんてさっきからダッサイことカッコつけて言ってました〜。「氷の心を持った魔女(グラギエス・フィーリアレーギス )? 言わせたい奴に言わせとけ! 俺は気にせんからサ!」って言ってました〜! 恥ずかしくないの? 聞いてくこっちが恥ずかしいったらありゃしない!!」 「へ〜俺は全く恥ずかしくありませ〜ん。自信を持って言います〜。」 「このっ。街に言いふらすわよ......私のむ」 「すみませんでした。反省しております。」 「はい。よく言えました。えらいね〜。すごいね〜。ちゃんと謝れまちたね〜。」 「はい。撫でられてユウト幸せ!! ってやめんかいドアホ!!」  人前にも関わらず、イチャイチャいていた。 「あの〜、夫婦めおと漫才するのは構わないんすけど〜」 「「してへん(ない)!!」」  息ぴったりの夫婦めおと漫才だった。 「す、すみません......これ、サービスしとくんで......」 「あら、そう? 今度から贔屓にさせてもらうわね。幾ら?」 「20本組みで5万ベガの所をサービスして半額で、しかも40本組みでどうでしょう?」 「もう一声!」 「こ、これ以上は......」 「これから先もここに来ようと思ってたのにな〜残念。」 「半額の1万2500ベガ、更に! 60本組み! この辺で本当に勘弁してください!」 「乗ったわ! はい、どうぞ。」  代金を渡した。 「ま......まいどあり......」  煙草を受け取り、店を出た。 「お得だったわね。占めて3万ベガの買い物が2500ベガになったわ。」  恐ろしい......容赦ない......こりゃ氷の心を持った魔女(グラギエス・フィーリアレーギス )ですわ...... 「そうやな......ほんまに頼もしいわ。」 「そうでしょ? 見習ってよね。頼りないんだから。」 「はいはい。可愛い可愛い。」 「なっ、そそそっそんな事......」 「デレとるやないかい!」 「デレとらへんわ!!」 「ナイスツッコミ。やるやんけ。」 「あ、つい......」  互いに、恐ろしく親密度と息の合う精度が上がっていった。 「そんなことより、荷物嵩張るでしょ?」 「あぁ、確かに。てか、アウロラは財布も持ってないよな。どっからお金出て来たん?」  彼女はほぼ手ぶらだった。 「収納魔法ストレイジ・マギアって言う魔法で、見えないけど確かに存在している空間に収納してるの。便利だから、これをまずはマスターしましょう。」  言うたら四次元ポケットみたいなもんか。便利やなぁ。魔法。 「そんなすぐにできるもんなん?」 「これは結構初歩的で、一番初めに覚える人も多いわ。大事なのは想像イメージ。まずは実際にやってみて。はい、このそこら辺に落ちてた石ころで実験。」  石ころを受け取り、想像イメージを固めた。 「ムムム......」  勿論、例の便利ポケットを想像イメージした。 「ほれい。どや。」  石ころは見事この空間から消え去った。 「おぉ! なかなか才能があるね。ポンコツじゃなかった!」 「誰がポンコツか! ほんまに。んで、これは出す時どうすんの?」 「想像イメージ。出す想像イメージを浮かべて。想像イメージ通りに出す。はい、やってみて。」  言われた通りやってみる。すると、なんとも簡単にできた。 「ほい。どう?」 「完璧! やれば出来る子ね。ユウトは。」 「YDKやれば できる 子 ね。まぁええわ。」 「なにそれ?」 「やれば出来る子の略称。」 「へー。ま、そんなのどうでも良いや。」 「引きと押しが上手いようでんな。とりあえず煙草入れとこ。」  まだ2本の完品と、1本の吸いかけが残っているので、60本組みまるまる収納魔法ストレイジ・マギアで収めておき、その1本に火をつけた。 「つまんないな。もっとあたふたしてよ。」 「ふーっ。同じ手何回も食らったらそうなるっちゅうねん。このユウト様を舐めるなってこったな。」  そう何度も思い通りに動いてやる訳にはいかない。癖になったら不味いからだ。  そんな事を思っていると、不意に近づいて来た。  なんや? いきなり。 「おっぱい、触った癖に。」  耳元で息混じりに囁かれた。 「──っっっ!?」  腰から背筋を通り、脳天まで何かが駆け上がっていった。 「まだまだ私が上手うわてみたいね。」 「ずるいわ。そりゃ......」  やばいわこの子......男心をなんやと思っとんねん......  だが、平然と見える彼女の内心は──  ......なんでこんなにちょっかいかけちゃうんだろう......お......お、おっぱいって、言っちゃった......引かれちゃったらどうするのよ私!!バカバカバカッ!!  なんとも普通の反応を示していた。  ──所謂、好きな子に意地悪してしまう男の心理現象が働いていた。普通は逆だが、彼女はなんとも珍しい心理感覚を持っていた。 「あ、あの、あとは、えと、何が要るのかな?」 「いや、動揺するんかい!!」 「うっ、うるさい!! もう何も買ってあげないよ?」 「おりゃ子供か。てか、なに要るんかもよーわからんしなぁ......」  この世界での必需品と言うものがわからないのだから、なにが要るのか、なにが要らないのか、わからなかった。 「うーん。それもそうね。 ユウトの世界ではどうだったかわからないけど、この世界では小国との小競り合いとか、この街は殆ど排除されてるけど、少し郊外に出るとゴロツキみたいな物騒な連中がいたりするから、武器とかが必要なのよね。 ま、ユウトの場合は丸腰でも良いかもしれないけどね。」  まぁある程度わかっとったけど、やっぱりそうか。もしかしたら生きとる内に戦争とかも起こるかもなぁ...... 「武器とかね......じゃ、連れてってくれる?」 「え、やだよ。」 「なんでやねん!!」 「うそうそ。じゃあいきましょうか。」 「おー、ほんま、たのんますわ。」  そんな調子で武具屋へ向かった。  歩きながら、街を見回す。何か前の世界と大きな違いがないか探していた。すると、街を見渡しても煙草を吸っている人間が全く見当たらない事に気付いた。 「なぁ、煙草って外で吸ったらあかんの?」 「どうして? そんな決まりはないけど。」  流石に、禁煙条例のようなものはなかったようだ。 「いや、吸ってる奴全然おらんからさ。」 「そこそこの高級品なのよ? 煙草って。そんな外で吸うようなものじゃなくて、美味しいお酒と嗜むものなの。この国ではね。」 「へー。じゃ、まぁいいか。」  煙を吐きながら納得した。 「ユウトが何の能力もなかったら、この国で生きていけなかったかもね。ほんとにお金のかかる趣味を持ってるみたいだし。」 「何の能力もなかったらアウロラのヒモにならなあかんとこやったな〜。」 「バッカじゃないの? 情けない。」 「今殆どヒモでんがな......」 「あ、ほんとだ。」  氷の心を持った魔女(グラギエス・フィーリアレーギス )と謎の煙草男。仲睦まじく歩く姿は、瞬く間にこの街で大きな話題となった。
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