umbrella desire

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……その日は雨だった。いや、正確に言うと天気予報が外れて丁度帰る頃に、土砂降りの雨が降ってきたのだ。 バケツをひっくり返したような雨とはまさにこの事を言うのだなというような大雨で、傘が無ければ帰れないという状況に見舞われていた。 しかし、こんな日に限って傘を持ってきていない。…と言うか、今日の天気予報は一日中晴れだったはずだ。傘なんか持ってくるわけが無い。 大ハズレの天気予報にイライラしながらも何とかして帰ろうと思った僕は、傘立てを確認した。 ……その時、一本の傘に目がいった。 傘がある。…しかし、誰の物かはわからない。至って普通のビニール傘が、使ってと言わんばかりに自分の存在を主張していた。 僕があの能力を持ってさえいなければ躊躇なく、この傘を使っていただろう。 次の日また同じ場所に返しておけば良い、そうすれば傘の持ち主も盗られたと思わずに済むだろうぐらいの気持ちだった。 ---人間は結局、利己的な生き物なのだ。…自分も含めて。 傘の持ち主が濡れる事なんて、お構いなし。自分さえ良ければ良いなんて思っているのだ。
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