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シャツは失敗だった。風の力で回るオブジェがとんでもない勢いで回転し、道行く人は首を隠したがった。待ち合わせから十分遅れて、二の腕の辺りに赤いブランドロゴがついた温かそうなダウンを着た楓が現れた。
「今日の格好寒そうだね。」
僕の中の悪魔がすごい暴言を吐いてる。
僕らはそれほど裕福ではないのでチェーン展開している串カツ屋に入った。
「生二つとたらこ、しいたけ、トマトを二本ずつください。」
一通り注文し終わると、楓はパンティーくらいしかない小さなバックから本を取り出した。
「ありがとう。これ凄くおもしろかった。」
「どの辺気に入った?」
「『付き合ってないのになんでこんなことするのよ。』に対して主人公が『一晩中音を止めないで、君と手を繋いで君を信じたいからだよ。』って逃げるところが好きだったなあ。一晩だけだと安すぎるし、毎晩だと重すぎる。一晩中ってところが私の中でドンピシャなの。」
「好きそうだね。」
店を出る頃には終電は終わっていた。僕がわざとらしく仕組んだわけじゃない。自然に、僕たちはラブホテルに入った。
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