2. 逢

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2. 逢

高校の入学式僕は初めて緋奈と話した。 その日は、まだ四月なのに気温は三十度近くあった。大量の汗でワイシャツは身体に張り付いて、校長の話があと少し長かったら僕はそのままミイラになって高校生活を終えていた。 ギリギリのところで校長の話は終わり、僕は学ランをしきりにばたつかせながら、クーラーの効いた教室へ足早に移動した。数分経ってみんなが揃うと、教室は「はじめまして」と「よろしく」で溢れかえった。どこの中学校出身だとか部活は何をしていたとか味気のない話がその後に続き、退屈だった。 僕は何をしてもしなくても、そのうち各々の適性に合った居場所に落ち着くことを心得ていた。おもしろくないやつがおもしろくしようとしてもどこかでつまらないし、友達作りが苦手なやつが無理をしても結果は思わしくない。僕たちは 、ほとんど生まれながらに適性は決められている。適性から抜け出す方法はなくて、これを認めてしまえば、みんなその事実に絶望する。努力、根性、忍耐のエピソードが好まれる理由はそこにあって、僕は自分の適性が大嫌いだ。 そうやってクラスメイトを冷めた目で見てると、僕に流れ弾が飛んできた。 緋奈は浅めのお辞儀をしてから僕に挨拶をした。 「私、吉岡緋奈っていいます。」 僕はほとんどオウム返しで返した。一度だけお辞儀をしてから名前を答えた。「俺は山城拓です。」 「なんて呼べば良い。」 「あだ名とか無いから山本で良いよ。」 いたずら好きな子供のように緋奈は笑った。「それじゃあ山ちゃんね。」 先に好きになったのは僕だった。ラブロマンスのような華々しいきっかけはない。ただ偶然掃除の時間に二人っきりになったり、緋奈と僕だけが分かる話で盛り上がったり、授業中話し込んで、先生に注意されるだけで、僕の心臓はよく働い。若い頃の好きに、「きっかけ」、「どこが好き」、「その先」なんてどうだって良い。器用、不器用。大人、子供。理由はいろいろあるけれど、「好き」なんて複雑なものを完全に表現できる人なんていなくて、今の想いにまっすぐであれさえすれば良い。
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