幸せのスイッチ

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 夜眠れずに、ベットに座って何の気なく壁を見つめていた。ふと、右の耳たぶが気になった。手をのばして親指と人差し指で耳たぶをつまむ。コリっと固いものを感じた。どうやら中に何か埋まっているらしい。親指と人差し指でその固いものをもてあそぶ。  カチッ  どうやらスイッチだったようで、人差し指に押した感覚を感じる。途端、体と瞼が重くなった。抗うこともできず、そのままベッドに倒れ寝てしまった。  次の朝は何事もなくやってきた。むしろいつもより頭がスッキリとし、体も軽かった。  それが最初にこのスイッチの効果を体感した時だった。  その後、何度もスイッチの効果を体感することがあった。のどが渇いているときに押せば、のどが潤う。何かを思い出せないときに押せば、パッと頭に浮かぶ。このスイッチのおかげで、日々が楽しく充実したものになっていった。  そんなある日、図書館で本読んでいた。スイッチのおかげで余裕ができ、読書なんて趣味ができたのは自分でも驚きだった。ペラペラと紙をめくる音だけが響いていた部屋が突然終わりを告げた。隣に座っていた男二人が喧嘩をし始めたのだ。理由はわからないが二人は激昂している。大きな声で喚く二人を、司書や近くにいた人たちが制止に入る。それでも男たちは収まらない。いつ手が出てもおかしくない状況だった。  そんなことは気にせずにページをめくっていたがさすがにうるさくなってきたので、右手を右の耳たぶへと運んだ。  カチッ  スイッチを押した瞬間、パンと耳元で音が響きブツンと何も聞こえなくなった。横の男たちはサイレント映画のように無音で口論を続けているようだ。もう一度本へと目を向け、静寂の中で本を読み始めた。
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