天通ずる眼の持ち手

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天通ずる眼の持ち手

今日も見得る。 生まれた時から人には見えないものが見得た。それを知った人は僕の眼を千里眼だとか、神通力だとか呼んだ。一部の人間に羨望のまなざしで僕を視るのに対して多くの人間は僕の眼を信じなかった。人間は自分の理解の範囲を超えたものは認めることができない。故に僕の眼は恐怖や畏怖の対象足りえた。 少し年を重ねると僕がただ見得るだけだと察した周囲の人間は僕を迫害し始めた。ありもしない存在を周囲に吹聴し不安を煽る危険な人物だとされた僕に友人と飛べるものはいなかった。唯一の話し相手はいつもそばにいた幻影であった。 「こんにちは、今日は石を投げられたよ。どうして僕がこんな目に…」 幻影は喋らないがいつもそこにいた。それでよかった。幻影は確かにそこにいたし、僕のどうでもいいような話を聞いてくれていた。 さらに年を重ねた僕は僕のことを知っている人間が誰もいない学校へと通うことにした。僕が家を出ると言ったとき親は悲しいような嬉しいような複雑な表情をした。 移り住んだ先でも友人らしい友人はできなかったが、幻影がいてくれたから寂しくなかった。 「こんにちは、今日は勉強がとても良く理解できたんだ。先生にあてられたところも問題なく答えたし、僕は意外と頭がいいんだね。」 今日も幻影は喋らない。それでいい、それがいい。誰にも奇異の眼で見られることのない平和な日々。
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