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バラララララララララララ…
騒々しいプロペラの音に眉をひそめながら、すぐ側の扉についた小窓から景色を見下ろす。
「お嬢様、あと10分程で到着です!」
耳に当てたヘッドホンから操縦士の声が聞こえる。
私はそれに分かった、とだけ返す。
眼下には楕円のような島が見えた。島は大きな川で半分に分断され、上空からでも左右で建築様式が違うのが分かる。
ヘリは島にある唯一のヘリポートを目指していた。
そこは島の二大勢力の内、文明が栄え近代化した側の都市だ。
この島は、地殻変動による川の出現によって勢力を二分された。それ以来彼らは全く異なる文明を持ち、全く違う言語を使うようになったのだという。
文明の違いは現代において、膨大な差を生むに至った。
片や原始民族、片や近代都市国家…というように。
「お嬢様、着陸のため高度を下げます。座席におかけになって安全ベルトをお締めください。」
操縦士からのアナウンスに従って席へと深く座る。カチリ、とベルトが固定された音を聞いてようやく少し緊張感に包まれた。
座席からやや見えるのはただ青い空だけだった。ヘリが少し風の抵抗を受けてガタガタ、と揺れる。
私はヘリが怖いのではない。そもそも、他に怖い物がある訳でもないのだ。しかし段々とヘリのフロントガラス越しに見えてくるヘリポートの誘導光で緊張は更に増すばかりだ。
「お嬢様…あともう少しです。」
操縦士の声が少し寂しげなのは気のせいではないだろう。
初老の操縦士は、私の幼少期から何かと世話を焼き気にかけてきてくれた。ヘリポートに着いてしまえば私とはもう二度と会えなくなるのだ。私の心も少しきゅうと締め付けられた。
「うん…そうね。」
私が返した言葉は自分でも驚くくらいに頼りなく響いた。スン、と鼻をすする音がする。見なくても誰のものかは分かる。私との別れをこんなに惜しんでくれるだなんて。
「…ローウェン、あのね…」
私が意を決して口を開いた瞬間、世界が―――――
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