35歳からのトリップ入門

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35歳からのトリップ入門

なんて中途半端な。 それが、一番最初の感想でした。10代ならまだ勢いでどんなことにも立ち向かえた。20代は美味しいとこ取りで冒険だって楽しめた。30なら、もう少しだけ遊ぼうかなと思えた。けどきっと現実を見れた。50、60になったらそこそこやりたいことやり終えたし、きっと楽しいと思う。だけど。 「何で今かなぁ…?」杉崎璃桜(すぎさきりおう)は呟いた。杉崎璃桜、35歳、女性、独身。会社員。そろそろお局に近くなってきたこの頃。一番好きな読み物。異世界トリップファンタジー、恋愛が絡んでいればなお良い。でもまぁ、 「自分が主役とかは有り得ない。第三者だからこそ面白いのだよ!!」叫んでみたけれど、反響は無し。ここはどこ。 冒険者には正しい案内者というか、案内板が出てくるはずなのに。あるわけないわよね。ゲームじゃないんだから。 湿った土を踏みしめて、ああ、昨日おろしたばかりのヒールなのに、今日のコンパで頑張ろうと奮発したのに。泥塗れ。だいたい、トリップする時の条件て、悪すぎると思わない?どうしてスーツで参戦できようか。ちなみに今日はツィード地のワンピです。これだってお気に入りなのに。付加されてるような能力なんて見当たらない。魔法なんて出てこない。目の前には延々と広がる大地。現在の時刻、18:40分。周りは暗く、村らしき明かりも見えません。身を隠すところもなければ、武器になりそうなものも落ちていません。幸いなのは、 「…これがかろうじて、道だってことよね…」足元にある幅4メートル以上の道を見渡す。 どこへ続いているのか、少なくとも地平線へは続いているようだ。なんとなくずるりと落ちそうになったバックを肩に掛けなおし、手持ちの傘を握り締める。空を見上げて、わけのわからない星座たちに方角すらわからない。とりあえず、国民的歌謡曲ス○ルを高らかに歌いながら歩くことにした。ヒールはもう、はきつぶすつもりで。
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