明かりが見えません。

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明かりが見えません。

電気って偉大だ。 広大な自然を堪能して、エセ自然保護活動家っぽい気分になったけれど、結局、人の心に明かりは必要。 「…もったいないけど消すか。」携帯の圏外を確認して、少しだけその光に癒されると電源オフ。 これには、明日使うはずの資料のデータや写真が入ってる。もう使えないけれどここまで頑張った自分の労働時間を無碍にはしたくない。幸いなのはメールで社に送信済みだから、私が明日居なくてもどうにでもなるということだ。 「おなか、すいたな…」いつもバックに入れているバランス栄養食はもう食べてしまった。ああでも『備えあれば憂い無し』ってホントね。無駄なものばかり入れているB4サイズの紙すら入るこのバックに感謝しないと。 一人暮らしだから明日いきなり居なくなって心配する人はいないが、無断欠勤が続けば家にも連絡は行く。失踪なんて有り得ないし、こんなことならもっと会社のデスクを綺麗にしておけばよかった。 (密かにダウンロードした猫の壁紙シリーズはPCに残したままだ。どうしよう。下村あたりが気づいて削除してくれると良いのだけど…)気の効く後輩を思い出し溜息をつく。 (駄目だ。仕事も恋愛も詰んだ……) この不況でクビになったら次の仕事に就ける自身は無い。つけたとしても今ほどの待遇は望めない。自分の能力は把握している。この歳だ、次は正社員は無理かもしれない。 今日はコンパで。いつもの会社の飲み会ではもうはしゃげる歳ではなくて、後輩たちを監督しつつ、彼女たちの恋愛模様を応援しなくてはならなくて。適齢期って何かしらと思う。少し前までは私も彼女たちと同じようにはしゃいでいれたのに。 「だから、どうせ召喚よぶなら、もう少し若い時に呼んで欲しかったのよね。」そうしたら、もう少し楽しめたと思うの。 今更、こんな生活に疲れたおばさんにどうしろっていうのよ。 そこまで思って気づいた。 「召喚じゃないかもしれない。」偶然、自分が何かの運の悪さでー宝くじ3億当てたような確率のーここへ来てしまったとしたら。 ぞっとした。 誰にも必要とされず、こんな見知らぬ土地で生きていけるだけのスキル、現代日本に慣れすぎた自分にあるはずがない。 「…ひとまず、歩くしかないのよね…」ヒールは既に泥だらけ。街か何かがあるならまず靴を新調しないと。お金は使えないだろうし、どうしたものかしら。 自分が歩き続けたところでこの道の先はあるのだろうか、むしろバックのペットボトルが無くなるまでにたどり着ける場所があるのだろうか。 それでも歩くしかないから、歩くのだけど。 そこで、遠くから音が聞こえてきた。 後ろから聞こえる音に振り返ると、遠くから小さな光。 「!」人かもしれない。
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