検査

1/1
332人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ

検査

脳腫瘍の簡単な説明を聞いた後、造影剤を使用してのMRI検査が行われた。 造影剤を使用する事によって、腫瘍の部分がはっきりと鮮明にわかるそうだ。 緊急搬送された時は造影剤を使用していなかった為、白黒の脳の画像の中に、グレーの部分が小さくあった。 言われないと分からないくらい、その部分は分かりにくく、拡大してもらってやっと私と妻は認識する事が出来た。 妻は造影剤を投与された。 といっても、見た目は普通の点滴となんら変わりはなかった。 ただ、1つだけ違ったのは注射の針の大きさだった。 長さは2倍、太さは3倍ほどの、それは大きな注射針だった。 きっと私なら注射針を見ただけで失神していただろう。 女はなんと強いものかと、この時、改めて思った。 造影剤の点滴が終わると、妻はMRIの撮影に向かった。 余談だが、私は30年ほどの人生で手術の経験はおろか、骨折もなければ入院といっても検査入院程度で、病気やケガとは無縁の人生を送っている。 MRIとは、よく聞くのだが、どんなもので、どんな検査をしているのか、どれくらい時間がかかるものなのか、私にはまったくの未知数だった。 MRIの撮影は1時間弱で終了した。 私は興味もあり、妻にどんなものなのか詳しく聞いたのだが、全くもって想像が出来なかった。 “百聞は一見にしかず”とはよく言ったものだ。 これは決して、妻の説明がヘタだったという事ではないとだけ言っておこう。 撮影から1時間くらい経っただろうか。 主治医に画像が出来上がったので、改めて説明をすると言われ、応接室のような3畳ほどの小さな部屋に案内された。 小さな机の上にパソコンがあり、椅子が5つほどのとても殺風景な部屋だった。 パソコンには妻のMRI画像が映しだされていた。 その画像を見ながら主治医は説明をしてくれた。そう、あのとても濃い顔で。 私は主治医の顔をあまり見ずに、パソコンの画面に集中する事にした。 造影剤を使用した結果、私や妻にもすぐに腫瘍は認識出来た。 腫瘍箇所は白い丸になっていた。よくテレビや映画で見るあれだった。 主治医の説明によると、腫瘍の大きさは1cm程度、ちょうど小指の爪くらいの大きさだという。 左足の痙攣は対角である右脳からくるもので、その右脳の前頭葉に腫瘍があった。 つまり、左足の痙攣は腫瘍によるもので間違いないとの事だった。 しかし、1つだけ問題があった。 それは、腫瘍が前頭葉付近にある運動を司る部分に少し絡まっているとの事だった。 その部分を手術で摘出すると、後遺症として左足の感覚がなくなったり、動きが悪くなったり、最悪の場合、左足マヒになる可能性もあるとの事だった。 主治医はその後遺症をなるべく残したくないと考えてくれており、運動を司る部分以外を手術で摘出し、絡まっている部分は放射線で死滅させていく方法を教えてくれた。 その方法を聞いた私は、 「それなら手術して放射線治療すれば、妻は何の後遺症もないのか。よかった」 と少し安心した。 なんとも単純な男である。 説明を終え、私と妻は病室へと戻った。 そこでは他愛のない、ごく普通の会話をした。 お互い、病気の原因がハッキリとわかり、治療方法も明確に分かったので、幾分か気持ちが楽になっていたのだ。 明日からは私も仕事がある為、日中はこられない。 だが、不幸中の幸いというのだろうか。 妻が搬送され入院している病院は、私の職場から車でわずか10分の距離にあり、しかも帰り道という、これ以上にない場所に搬送されていた。 私と嫁は、つくづく運が良いのか悪いのか分からないものである。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!