王都ルベルターザの斜陽

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       ―Ⅶ―    そのあとナラカは、アルシュファイド王国で自分が得ることのできる、学びの場と機会について、詳しく聞きたがった。 そこで、快く説明を始めたセニによれば、ナラカはまず、学習場で基礎的な知識を身に付けることになるだろうということだった。 「もしかして、専任の教師が付くことになるかもしれないから、場所は学習場ではないかもしれない。とにかく、しばらくアルシュファイドで暮らすことになるんだろうから、学習場で教わる内容は、詰め込まれることになる」 「学習場で教わる内容って?」 「自分がどこにいるのかっていうことを把握するための大まかな地理と、生活で使うだろう計算の仕方と、あらゆる場所や物に掲示してある、説明や注意が読めて、その意味を理解できる程度の言葉と、あとは交通機関や公共施設の基本的な利用の仕方だな」 ナラカは深く頷いた。 それらは確かに、アルシュファイド王国で生活する上で、最低限必要なことなのだろう。 「それが終わったら、君の好きにできるから、基礎知識を覚えている間に、技能学校に行くか、士官学校に行くか選ぶことになるかな」 「技能学校と…しかん、学校」 「ああ。アルシュファイド国民は、大体どちらかの学校に4年間通う。だから大体、12歳から15歳の子が所属してるんだが、君のように異国から来る者もいるから、20歳を過ぎて所属している場合もある。20代後半になると、学校に通うことなく、すぐ職場で、働きながら知識を吸収する者が多いな」 そこで一旦、言葉を切って、セニは技能学校と士官学校の説明をした。 「…学校のなかは特に安全だから、もしどちらかにナラカが通うなら、ヤトも、よければ、士官学校に通ってはどうだ?どのみち、授業中ずっとナラカに張り付いていることはできない」 「………」 ヤトは、なんとなく不服そうだった。 よほど離れることが不安らしいと、セニは仕方なさそうに笑う。 「まあ、引き続き?専任の教師が付いて、滞在する邸か王城での学習になるかもしれない。だが、君らのためには、年の近い、同じことを学ぶ者たちと接することを勧める。その関わりが、君らの力になるかもしれないし、何より、友人を作る機会は、ないよりあった方がいい」 「友人を…作る、機会…」 ナラカの呟きに、セニは微笑んで頷いた。 「で、話を戻そう。どちらの学校でも、通常の速度で学習するなら、所属する期間は、だいたい4年になる。この4年目の年は、職場に出て働き、早めに経験を積んだり、技能学校の生徒は特に、何種類もの職場を経験する者もいる。ナラカの役に立ちそうな職場は、もしオルレアノ国に戻って国政に関わろうとするなら、アルシュファイドの国政に携わることとかだな」 「……。4年も…」 呟くナラカに笑顔を見せて、セニは言った。 「過ぎてしまえば、あっという間だ。弟(ぎみ)も、その頃には、自分の意思で進む道を決めているかもしれない。よく話し合うことだ」 ナラカは、今更だが、弟ボルドは、どのような子だろうかと思った。 幼い頃の記憶はあまりに遠く、あの金の瞳を思い出すのがやっとだ。 「それに、その(あいだ)に、学校では教わらないオルレアノ国のことを、図書館で調べることが必要になるんだろう。むしろ時間は、その程度では足りないんじゃないか?」 また、ナラカは、オルレアノ王国現国王の王姪(おうてつ)として、禁書庫内にある特別閲覧室という部屋を利用することができ、オルレアノ王国の機密として閲覧制限の掛かっている、あらゆる資料を閲覧することができるということだった。 「いいの?私が見ても…」 「大丈夫だ。人柄にもよるが、基本的に王族は、禁書庫にある自国の資料を閲覧することができる」 「セニ」 そのとき、(たま)()ねたようにヤトが声を上げた。 「こんなところで言うようなことじゃない」 ここは言わば敵地だ。 セニが王姪(おうてつ)と言った瞬間から、気が気でなかった。 それを聞いて、セニは、ああ、すまない、と仕方なさそうに笑った。 「今、話している俺たちの声は、ほかの者には聞こえていない。風に細工をしたからな」 「風に細工?」 「ああ。言っておけばよかったな。結界を張ると、余計な不審を招くから、そういう手段を採ったんだ。今は動いていないから、そんなやり方もできるのさ」 ヤトは、その効果のほどが判らずに、まだ少し不安だったが、セニを信じることにした。 「そう…か…、すまない、続けてくれ」 セニは、そんなヤトの心情を察して、また少し困ったように笑い、だが、言われた通り、続けることにした。 「…それで、もし今後、オルレアノ国で王権が消滅することになっても、君がルベルターザ王家の者である事実は消えないから、閲覧権利も消えないはずだ。一応、確認してみてくれ」 「分かった。学習場で生活の基礎知識、技能学校で働く知識、士官学校で広範囲の知識が得られる、という理解で近い?」 「ああ、近いな」 「あとは、時間を作って、図書館や禁書庫から、補足知識を得られる」 セニは頷いた。 「ああ。それと、知識だけでなく、君らは異能の使い方を学んだ方がいい。今、俺がやっている、音の操作なんかも、知っていれば役立つだろう?」 ヤトを見ると、確かに、と深く頷いた。 「こういう使い方は、主に士官学校で学べるんだが、学校の通常講義が終わるのは15時だから、そのあとで特別講義を受けられるように、政王陛下などに話をすれば、技能学校の生徒として所属していても、学ぶことができるだろう」 「そうすると、どちらの学校を選んだとしても、15時以降なら、自由な学習ができる?」 「ああ、そうだ。詰め込みすぎると体に負担が掛かるから、ほどほどにな」 ナラカは頷いたが、それは、無理はしないという意味では、ないようだった。 セニは察して、仕方ないなと笑う。 「ほかにも、剣術や体術などで、特別講義が受けたければ、退役騎士などが開いている鍛練場を代わりに利用してもいい。それから、今、アルシュファイドには、応用修練場というものもあるから、行ってみるといい。きっと異能の制御の役に立つ」 ナラカとヤトは無言で頷き、アルシュファイド王国では、忙しく過ごすことになりそうだと、胸に刻んだ。
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