5人が本棚に入れています
本棚に追加
旅立ち
平和な村で5年。
よく持った方だ。
オルレアノ王国は戦いの絶えない国だ。
そんななかにあって、少女が身を寄せた部族は、かなり器用に立ち回り、平穏を保ってきた。
匿ってくれた彼らには、感謝を持つけれど。
胸の奥にある、黒い炎が、彼女の内にどろどろと溶解した熱い何かを生んだ。
少女はその朝、赤い陽が昇るのを見ながら、その熱い何かが大きくうねり、暴れる苦しさに耐えていた。
「ナラカ。そろそろ出発の時間だ」
少女は振り向いて、幼馴染みの顔を見る。
胸の奥の苦しさが、すっと引く。
「ヤト」
「族長が待ってる」
「分かったわ」
歩き出しながら、少女は意識して顎を上げた。
これから、どうするのか、まだ、形も作れなかったけれど。
旅立ちの時が来たのだと、胸に覚悟を据えた。
最初のコメントを投稿しよう!