旅立ち

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旅立ち

平和な村で5年。 よく持った方だ。 オルレアノ王国は戦いの絶えない国だ。 そんななかにあって、少女が身を寄せた部族は、かなり器用に立ち回り、平穏を保ってきた。 匿ってくれた彼らには、感謝を持つけれど。 胸の奥にある、黒い炎が、彼女の内にどろどろと溶解した熱い何かを生んだ。 少女はその朝、赤い陽が昇るのを見ながら、その熱い何かが大きくうねり、暴れる苦しさに耐えていた。 「ナラカ。そろそろ出発の時間だ」 少女は振り向いて、幼馴染みの顔を見る。 胸の奥の苦しさが、すっと引く。 「ヤト」 「族長が待ってる」 「分かったわ」 歩き出しながら、少女は意識して(あご)を上げた。 これから、どうするのか、まだ、形も作れなかったけれど。 旅立ちの時が来たのだと、胸に覚悟を据えた。
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