旅立ち

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       ―行く先―    旅立ちの日、バラガ(ぐん)の外れに行くと、ダリとサマハ、そして仲のよかった少女が見送りに来ていた。 ほかの者たちはすでに、ムラのなかでのそれぞれの役割を果たしに行っている。 ナラカは、少女と手を取り合って、元気でと言葉を交わすと、ダリを見た。 「では、行きます。今までありがとう」 「体に気を付けなさい」 「はい」 挨拶を終えると、騎乗し、ムラを離れた。 同行するのは、セニと、ヤト。 バラガが見えなくなると、セニがナラカを見て言った。 「さて、まず、次の宿泊場所は、レイントーン族のバラガを借りる。西に向かうことになるが、野宿するよりはいい」 「野宿でも構わないわ」 「まあまあ、そう急ぐこともない。現国王への謁見を取り付けるには、少し時間が必要だしな」 ナラカは、アルシュファイド王国に行く前に、どうしても行きたいところとして、王国の最北に位置する王都、ルベルターザの名を告げた。 そこで、現国王として立っている叔父に会いたいと。 身元を隠してでもいいのならということで、セニが手配してくれることになった。 名を明かし、面と向かい、話をしたかった。 だが、それで何を聞くのかと問われても、答えられなかった。 なぜ母王を()すことになったのか。 それを直接彼に聞くことは、意味を持つだろうか。 5年間、マディーナ族に身を寄せていて、母王が民にとってどのような王だったか、知ることになった。 自分と弟には、子供っぽい甘えを見せるやさしい女だった母王が、民には、理不尽に、(つら)く当たっていたこと。 (ぜい)を尽くし、内政を顧みることがなかったこと。 悪臣に(ちょう)を与え、事態を悪化させたこと。 叔父の即位後の働きから、少なくとも我欲に駆られて蛮行に及んだわけではなかったのだろうとは思う。 けれど。 母王が悪かったのだ。 そう、他者に言われる度に、たとえようもない怒りが湧く。 なぜ。 あの残虐な行為が許されていいわけがないのに。 「ナラカ」 呼び掛けられて、ナラカは、はっと息を吐いた。 ヤトを見ると、心配そうにこちらを見ている。 「大丈夫」 そう言って、前を見た。 今はとにかく、向かう。 王都へ。
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