第1章: あの声、誰の声

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「マジで? えー、気付かなかった。どれくらいやったの?」 「……3週間くらい」 「短っ!?」 「だってさー……」 「あー、いや、ごめん。だいたい解った」  いろいろと言い訳めいた御託を並べようかと思った矢先、ヒカルがそれを遮った。 「……マイって、わりとそういう忙しないの向いてないだろうし」 「わかる?」 「そりゃもう」  家の近くのコンビニということで店長さんとは顔見知りということもあったので、そこそこ人見知りの気もある私でも導入部分は乗り切れた。  棚の陳列に関しても問題は無かったと思うし、レジ打ち自体についてもそれなりに熟していたはずだ。  ――そう。誰も居ない状態であれば。  ひっきりなしにやってくる忙しさに何も出来なくなってしまい、「無理しなくていいよ」というオブラートに包まれたナイフで一刺しされてしまったのだ。 「で、それ以来やってないわけか」 「うん」 「そうっかー……」  じゅじゅーっ、と大きな音を立てつつコーラを飲み干すヒカル。  そのままヒカルは、おかわりもらってくるわ、と言い立っていった。  ペースが早い。  季節外れなまでに今日は暑くなっているので、仕方ないとも思う。  私もアイスコーヒーの消費がいつもより早かった。  次はコーヒーじゃない何かにしよう。 「協力できるか、ちょっとビミョーなんだよね」  戻ってくるなり、ヒカルは少し落ち気味のトーンで告げてきた。 「マイよりはバイト慣れしてるとは思うけど、やってきたのがアンタ向きじゃないんだよねー……。ほら、基本、飲食系のバイトだからさ」 「あー……」  それは。――ちょっと。 「絶対向いてないね、たしかに」  いっしょになって気落ちしてしまう。  飲食店とか。  ひっきりなしに来るお客さん。  膨大なメニューの数。  回避しきれないトラブル。  もはや幕の内弁当的悪夢。  悪夢のデパート、もしくは総合商社。
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