第1章: あの声、誰の声

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「そう。だから、私と一緒のところにしよう、とは言いづらいし。かといって、『またいつでも来てね』って言ってもらったところにアンタを紹介するのもね。アンタにも悪いし、店にも悪いし」 「はぁ、そうだよねー……」  きっちりと明確にため息を溢してしまう。  幸せが逃げる?  違う。  幸せが今まさに逃げていく様を見つけてしまったから、ため息が出てくるのだ。 「基本的に早くないからね。アンタって」 「トロいってハッキリ言ってくれていいのに」 「あ、解ってたんだ?」 「言われ慣れてますんで」  わりとその都度傷ついてはいるけれど、事実なのだから仕方ない。  昔ほどは傷つかなくはなっているはずだ。  何度も何度も傷ついた場所には、だんだんと厚い装甲が着くモノだ。 「んー。まぁ、トロいっていうよりは、アドリブが効かないって言った方が合ってるような気がするのよねー。動きが遅いとか、要領が悪いっていうわけでも無いから」 「……慰めの言葉が傷に滲みるよぉ」 「あたしの胸で良ければいつでも貸すぜ? お嬢さん」  そう言いながら、ヒカルは少し長くなり始めた私の髪を撫でる。 「うう……、何か余計に傷が深くなりそう」 「何でよ!」  ――だって、ヒカルの方が、大きいし。  何がかは、言わないけど。  っていうか、それもわかってそうだから言わない。
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