第1章: あの声、誰の声

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 と、ぐんぐん膨らむ妄想がその膨張を止めた。  さすがに夢見るお年頃は過ぎていた。  冷静になって考えるとちょっとした疑問点が浮かび上がってくる。 「あれ? でもこれ、掲示板の求人とかに書いてたかな?」 「さぁ? 私そういうところのって昔1回見たっきり調べてないからわかんないや」 「なんで?」 「だって、その時に載ってたの、塾講とか家庭教師とかだったもん。何で講義ない日まで勉強しなきゃ行けないのよ。何で他人の勉強見なきゃいけないのよ」 「……私、ヒカルが教員志望じゃなくて本当に良かったと思うわ」 「お生憎様。こっちから願い下げだわよ、そんなの」  べーっ、と舌を出すヒカル。  彼女本人の口からそういうことは一度も聞いたことはなかったけれど、改めて確認できて良かった。 「んー……」 「あれ? 乗り気じゃない?」 「いや。そーじゃなくてさ」  何も申し分は無い。  ケチの付けようも、あまりない。  ただ、少しだけ引っかかる項目がいくつかある、ということで。 「こういうのって、何か資格とかって必要なんじゃ無いのかな、って思って」 「あー、確かに」  記憶が正しければ国家資格が必要だったはずだが。 「…………ん? いや、ちょっと待って」  画面を少しスクロールして、ヒカルはそれをずいっとこちらに向けてくる。 「液晶、バッキバキだったのね。今まで気付かなかったけど」 「今見るのそこじゃないわっ! 先週末に落として割ったの! 今はこっち!!」  これが目に入らぬか、という勢いで私の目の前にスマホを突きつける。  さすがにその距離だと焦点が合わないので、少し引いて検分する。 「へー、取らせてくれるんだ」 「ね」  見れば、司書補資格を有していない者については講習を受けることが可能とある。
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