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第1章: あの声、誰の声
「バイトを探したい?」
「そうなの」
よくある全国チェーンのファミレスによくあるドリンクバー。
時間はお昼をだいぶ過ぎたくらいで、座席にはかなり余裕があった。
適当に時間を潰せそうなものを頼んで間もなく、向いに座る同級生の倉持光【くらもち・ひかる】に切り出した。
「珍しくない? マイがそういうこと訊いてくるとかさ」
「単純な話、ちょっと入り用があってさー。何とか仕送りだけで乗り切ろうと思ってたけど、そうも行かなくなっちゃって」
「まぁ、世知辛い」
派手めに染め抜いたショートボブを軽く泳がせながら冗談めかしてヒカルは言うけれど、実際世知辛かった。
涙でメガネが曇りそうだ。
「あとはちょっとだけ独り立ちっぽいことしてみたい願望っていうのも、無いわけじゃないけれど」
「んふ」
聞き慣れない、ちょっとマヌケな笑いがヒカルから漏れる。
「何よー。そんな変なこと言った覚えはないわよ?」
「ううん? 背伸びしたいお年頃って、みんなそんなもんなのねーって思っただけだわよ」
「背伸びって……、うーん、あんまり強く否定できないのが若干悔しい」
実際問題、1年生の間は『まずは勉強に集中、単位落としたりなんかしたら許さない』と、仕送りの段ボールの中面に毎度毎度記載されていたくらいだ。
背伸びには違いない。
その辺りは、高校からの付き合いになるヒカルも把握していることだろう。
「っていうか、そもそもマイがバイトしてたイメージが湧かなくて」
「一応はしてたことあるよ? 高校の時に」
「え? ウソ? 何時の間に?」
「2年のときに、近所のコンビニで」
私の返しに、ヒカルはさらに目を丸くする。
大きな目がさらに大きくなり、バッチリつけまから風が巻き起こりそうだ。
――そんなにしなくても充分長いと思うんだけどな、ヒカルのまつげ。
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