慟哭

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慟哭

4月1日の手記。………曇りのち雨。 「私って、あの人にとって、そんなに魅力の無い女だったのかしら? アナタにとって、………私の何処がいけなかったの?」 私、今年の春に、失恋しちゃって……… 『………春なのに、お別れですか?』 昔、そんな歌をカラオケで唄っていた様な気がするけれど………。 でもね………………。 それって、正確に言って、失恋って言っていいのか分からないんだけれど。 だって、彼が惹かれた相手って言うのが、私も行き付けのショット・バーのマスター、檜山 翔 君なんですもの。 あれは、当時の彼を初めて私の行き付けのお店に誘った時の事だった。 彼の名前は、丘野 真史。 都内にあるIT関連会社に勤めている、技術系のサラリーマンだったんだけれど。 私も、もう年頃ですもの。そろそろ結婚とか考えても良いのかも知れなかったのだけれど、当時、お付き合いしてる方もいなかったものだから、取り敢えず、仕事に生きてたんだけれど、親戚の叔母様から縁談のお話を持ち掛けられて、それで、お見合いした相手が真史さんだった訳。 ………その真史さん。今迄も女性経験が全く無いらしくて、恋愛するには少しだけ物足りなさを感じたのだけれど、結婚するって話になるのなら、一緒にいても、安心出来るタイプかも。 初めてお付き合いしていた頃は、何事も無く、時間だけが過ぎていた筈なのに………。 やはり、運命の刻とは、真史さんにとっては翔君との出逢いだったのかしらね。 「………いらっしゃいませ。………あれ、今日はお連れの方と御一緒なんですねぇ?」 翔君は、私にそう話し掛けて来た。 「………私だって年頃ですもの。たまには語り合う時間があっても良いでしょう?」 「それもそうですよねぇ。………なかなかのお似合いのカップルに見えますよ。」 そう言って、翔君は、真史さんの方を一瞥して、二人はお互いに会釈を交わした。今から思ってみると、その時の真史さんの素顔からは、何故だかぎこちなさと言うか、辿々しささえ感じられてしまっていた様で………。
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