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「あなたの・・・雨京様の蛇の目は好きです。僕をいつもじっと見てくださる。だから・・・あなたが蛇なら僕はあなたに噛まれてもいい。あなたに絞め殺されて食べられてもいい・・・」
僕はそう言って雨京様の唇に接吻をし、微笑み、心いっぱいの愛の言葉を口にしていた。
「景千代・・・お前は本当に馬鹿な人間だな。いつか本当に絞め殺し、食べてしまいそうだ。それほどお前のことが愛おしい・・・」
そう言われて溜め息を吐き出された雨京様の蛇の目は潤んでいた。
そして、僕の目もきっと・・・。
「ん? ああ・・・景千代、外を・・・」
そう言われて身体を起こされた雨京様に僕は『はい?』とお返事をお返しし、同じように身体を起こし、その重たい身体を僅かに雨京様にもたれ掛け、少し開けていた障子の隙間から外へと目を向けて目を丸くしていた。
目を向けた先では蛍の大群が乱舞をはじめていた。
「凄い・・・」
僕はそうとしか言えず、その美しい一枚絵のような光景に震え、見惚れていた。
その震える身体を僕は後ろから抱きしめられ、また震えた。
「景千代・・・またお前の傘の内に俺を入れてくれるか?」
そう訊ねられた僕は笑んで答えていた。
僕のその答えは群れを抜け出し、部屋の中にこっそりと忍び込んできた二匹の蛍の逢い引きのようなひっそりとした蜜な答えだった。
僕は何度もこの方を受け入れる・・・。
あの日のあの晩、僕は傘の内で大嫌いな蛇に恋をし、心を奪われた・・・。
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