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一度だけのつもりだった・・・。
そして、本気にならないとも決めていた。
なのに・・・。
「雨が降らずとも・・・お越しください・・・。お待ちしております・・・」
僕はそう呟き、目を閉じた。
目を閉じるとあの日の光景が鮮明に思い出された・・・。
僕とあの人がはじめて出逢ったのは秋雨の降り頻る寒い夜のことだった。
あの人は傘も差されずに夜道を歩かれていた。
それを見た僕は慌ててそのあの人に駆け寄り、そのあの人を僕の傘の内に引き入れてぎょっとしていた。
そのあの人は冷たい秋雨に打たれていたはずなのに僅かばかりも濡れておられず、乾かれていた。
そして、僕を見たその目は・・・。
ポツリ・・・ポツリ・・・。
そんな音が僕の耳を突いた。
その音にハッとさせられた僕は閉ざしていた目を見開き、顔を上げて暗闇の濃くなった庭を見回していた。
見回し見た庭は雨に濡れ、色を濃くし、雨の匂いを漂わせ、蛙たちを喜ばせていたが蛍たちは・・・庭の隅の木々の葉の間で泣いていた。
そして、僕も・・・。
「お逢いしたいです・・・雨京様・・・」
「素直なお前は可愛いな」
雨音のようなその声を聞いた僕は慌てて後ろを振り返り・・・。
「んッ!?・・・あっ・・・!」
口を塞がれ、後ろから抱きすくめられてしまっていた。
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