26人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぁ・・・景千代・・・」
そう声を掛けてこられた雨京様に僕は『はい』とお答えし、薄く目を開けていた。
僕と雨京様は何度も交わり、何度も達し、何度も果てていた。
それを何度も繰り返した僕は睡魔と怠惰の渦の中にいた。
なのに僕は寝付けれず、雨の中、恋歌を騒がしく歌っている蛙たちの声をぼんやりと聞いていた。
「お前・・・どうしてあの日の晩、俺を傘の内に入れた?」
あの日の晩・・・。
「お前、俺が人じゃないことはすぐに気づいていただろう?怖くはなかったのか?」
「そう・・・ですね。本当に驚きました。どしゃ降りの中、傘もさされていないのに全く濡れられていなかったし、目は・・・」
僕はそう言って雨京様の目を見つめ見ていた。
見つめ見た雨京様の目は今宵も蛇の目をしていた・・・。
「・・・景千代・・・俺の目が怖いか?」
そう訊ねてこられた雨京様に僕は『いえ』とお答えして首を横に振っていた。
「では・・・気持ち悪いか?」
その問いにも僕は『いえ』とお答えして首を横に振った。
「では・・・」
「僕は・・・蛇が嫌いです」
僕はそう言って雨京様の言葉を遮っていた。
それに雨京様は喉をひゅるりと鳴らされていた。
「子供の頃・・・噛まれたのです。幸い、毒蛇ではなかったので大事には至りませんでしたが・・・それから蛇が怖くて・・・。けれど・・・」
僕はそう言って隣で横になっておられる雨京様に手を伸ばし、その頬に触れ、目の下を親指で撫でてその蛇の目をじっと見つめ見ていた。
雨京様は・・・雨京様の蛇の目は・・・。
最初のコメントを投稿しよう!