鳴かぬ蛍が・・・。

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「なぁ・・・景千代(かげちよ)・・・」 そう声を掛けてこられた雨京(うきょう)様に僕は『はい』とお答えし、薄く目を開けていた。 僕と雨京(うきょう)様は何度も交わり、何度も達し、何度も果てていた。 それを何度も繰り返した僕は睡魔と怠惰の渦の中にいた。 なのに僕は寝付けれず、雨の中、恋歌を騒がしく歌っている(かわず)たちの声をぼんやりと聞いていた。 「お前・・・どうしてあの日の晩、俺を傘の内に入れた?」 あの日の晩・・・。 「お前、俺が人じゃないことはすぐに気づいていただろう?怖くはなかったのか?」 「そう・・・ですね。本当に驚きました。どしゃ降りの中、傘もさされていないのに全く濡れられていなかったし、目は・・・」 僕はそう言って雨京(うきょう)様の目を見つめ見ていた。 見つめ見た雨京(うきょう)様の目は今宵も蛇の目をしていた・・・。 「・・・景千代(かげちよ)・・・俺の目が怖いか?」 そう訊ねてこられた雨京(うきょう)様に僕は『いえ』とお答えして首を横に振っていた。 「では・・・気持ち悪いか?」 その問いにも僕は『いえ』とお答えして首を横に振った。 「では・・・」 「僕は・・・蛇が嫌いです」 僕はそう言って雨京(うきょう)様の言葉を遮っていた。 それに雨京(うきょう)様は喉をひゅるりと鳴らされていた。 「子供の頃・・・噛まれたのです。幸い、毒蛇ではなかったので大事には至りませんでしたが・・・それから蛇が怖くて・・・。けれど・・・」 僕はそう言って隣で横になっておられる雨京(うきょう)様に手を伸ばし、その頬に触れ、目の下を親指で撫でてその蛇の目をじっと見つめ見ていた。 雨京(うきょう)様は・・・雨京(うきょう)様の蛇の目は・・・。
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