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はじまり。
数日前、遂に梅雨入りを果たした。
今日はその梅雨の中休みと言うやつなのか朝から眩い青空が広がり、青々と茂った庭の木々の葉は柔らかな初夏の風にそよぎ、揺れていた。
今夜、雨が降ればあの人は僕に逢いに来てくれるだろうか?
そんなことを毎日、毎夜思う・・・。
しかし、その思いは一向に通じず、僕を焦らし、縛る・・・。
あの人は今、どこにおいでなのだろうか?
そこで僕のことを少しでも思っていてくださっているのだろうか?
それとももう僕のことなど綺麗に忘れられてしまっているのだろうか?
そんなことを思うと走らせていた筆の動きはピタリと止まり、パタパタと紙の上に涙がこぼれ落ちた。
こぼれ落ちた涙は書いたばかりの文字をじわりと溶かし、滲ませていた。
こんなに辛いなら・・・はじめから出逢わなければよかった・・・。
そう思うのに出逢えてよかったと思えるこの気持ちは一体、なんなのだろう?
「今夜・・・お待ちしております・・・」
僕はそう呟き、筆を置き、初夏の庭へと躍り出た・・・。
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