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「傘は、持ったか…?」 布団に横たわった、おじいちゃんが弱々しい声でつぶやく 外は、音を立てて雨が降っている でも私、今、来たばっかりなんだけど… 小さい頃、はじめて傘を買ってくれたのは、おじいちゃんだった あの頃の私は、はじめて自分の傘を買ってもらえたことが、とにかく嬉しくて、 ところかまわず、傘をひらいては、くるくる回ったりしたっけ それがないと、すぐ機嫌が悪くなるから、 外出する時は必ず、傘は持ったか?ってきかれて 「かさ、 もったか…?」 うつろな瞳で、おじいちゃんがまたつぶやく 外はいつのまにか、すっかり暗くなっている だから私は、あの頃みたいに笑って、 あの頃よりも、ずいぶんと大きな、水玉の傘を掲げてみせる 「大丈夫、ちゃんと持ったよ」 その言葉にこたえるように握り返された手は、しわしわで、頼りなくて、 でも、あの頃と同じようにあたたかった
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