億の金

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億の金

 利一はそこまで話を聞いて、それがなんで俺のとこに来たんだと、疑問に思った。そこまで親しくもないのに。  宮崎は煙草をぎゅっと消し、思い詰めた表情で、「すこし、金貸してもらえないか?」と、利一の眼をまっすぐに見ていった。  あんたにそこまで義理ねえし、何いってんだ?と思ったが口には出さず訊いた。 「宮崎さん、そのM資金で、けっこう儲けたんすよね?」 「ああ、そうなんだよ。五百利益だした、五百万」  それで充分じゃん。利一は話しを切り上げようとした。 「いや、それがさ……途中からいろいろトラブりだして、穴埋めに借金して、大変になってな……」  ここで詳しく訊いて、長引くのも嫌なので、利一は黙っていた。 「……元の五百が一千まで増えて、手ぇ引こうと思ったんだけど、金塊はまだ腐るほどあって、一千入れたんだよ……そこら辺から、取引相手にトラブルが起きたらしくて、換金が滞りだしてな……」  煙草を挟む指先が小刻みに震えている。 「……大変そうですね。ただ自分は、そんな金ないですよ……違うとこあたったほうが……」 「いや、そんな何百万じゃなくて、数万でいいんだ、なんとかならないか?福岡まで行ければ……トランクの金塊が億になる。そしたら、百万でもお礼する、約束する!」 宮崎は頭を下げ拝む。  宮崎が真剣なことは、表情や眼つきで、なんとなくわかった。それも、真剣なだけじゃなく、何かに怯えるような、追い詰められた顔だ。人のこんな表情は、はじめて見た。  利一は「ちょっと待っててください」と部屋に戻り、財布にあった二万円を渡した。手切れ金のつもりだ。 「すまん!ほんとに、ありがとう!必ず返すから!」  車を降りて見送る利一に、宮崎は引きつった顔で何度も頭を下げ、重みでリアが下がったクルマで走り去った。
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