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[6] 駿
『会いたい』と送ったメッセージはことごとく無視された。
大学内で見かけることも無くなり連絡を取る手段が思いつかなかった。
家に行ってみたが居留守なのか本当にいないのか会えることはなかった。
そんなにすんなり上手くいくとは思ってもいない。
すれ違いばかりで素直じゃなくて欲しい物を欲しいと口に出せない子供のようなあいつの事だから俺を困らせるために逃げ回っているのかもしれない。
そう考えるだけで早く見つけてやりたかった。
言いたいことはたくさんある。
聞きたいことも。
玲央が言ったように相手の話を全て聞かないと正しいことなど分からないままだ。
そして自分が信じたいと思った事だけを、信じられると思うことだけを信じればいい。
恐いのは当たり前だ。
他人なのだから。
でも他人だからこそ惹かれた。
憧れた。
綺麗だと思った。
欲しいと思った。
俺はダメもとでゲイバーに足を運んだ。
ここに来るのは随分と久しぶりだった。
顔見知りも随分と少なく感じる。
ここにもあいつはいない。
そうだろうとは思っていた。
それでもあいつを知る人がいてくれたら何か連絡が取れるのではないかと思ったのだ。
「見つけた…。」
俺は一人テーブル席でグラスを傾けている明るい髪色をしたネコ目の男性に話しかけた。
「へー。あいつの事探してるの?君が?」
疑われるように見られる。
まるで見定めでも食らっているかのようだった。
「うちにいるよ。」
そう言って意地悪そうに笑う顔はやはり俺のタイプの顔だった。
「会わせてほしいんです。どこにいるんですか?」
年齢不詳のネコ目の男に敬語で話すのは少し違和感だったがこちらが下手に出なければいけない状況だ。
「んー。教えてもいいけど。俺と寝てくれる?」
急な問いかけに息を飲んだ。
「嫌ですっ!」
思ったよりも迷いなく言葉が出た。
本来タイプの男性を見ればすぐにでも手を出したくなる俺が好条件をたきつけられても断るなんてどうかしてる。
それも全てあいつのせいだ。
「ふふっ。フラれた。…いいよ。家にいるから。連れてってあげる。」
少しもショックな素振りを見せることなくネコ目の男性はグラスを空にして立ち上がった。
「俺はミケ。モモちゃんは何日か前から家に泊まってるんだよね。」
俺を挑発するかのようにミケと名乗った人物は笑った。
本来嫉妬するような場面なのだろうが嫉妬心はなかった。
あいつがどんな奴かは知っていたし。
誰より寂しがり屋なのも知っている。
あいつがこの人を好きだと言うのならば俺の出番はない。
でも最後の別れ際俺に抱かれたあいつは俺の事を思っていたんじゃないかと思えてしまうのだ。
「なぁんだ。自信あるんだ。少しモモちゃんの為にいじめてやろうと思ったのにな。」
男はなんともつかみどころのない性格をしていた。
何かを質問すればかわされ。
あいつの事を聞いても嘘か本当か分からない返しをされた。
「ここの503号室ね。二時間だけ時間つぶしてきてあげるから。早く帰るなら連絡するように言って。」
俺は深く頭を下げた。
「あっっ!!でも人ん家でヤんなよ!!!絶対だからな!!!」
そう言って彼は背を向けて歩き出して行ってしまった。
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