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 正造は隣に女の子のような可愛らしいネコ目の男を連れていた。 「お前も帰り?」 曖昧に言葉を濁そうとする正造に代わってネコ目の男が「そうだよ」と答える。 ニコリと笑う顔は更に可愛らしかった。 正造には勿体のない…。 俺が見とれていると腕がグイッと引っ張られる。 そうだった。 こっちもどうにかしなくてはいけなかった…。 「僕、これからもう一軒行くんだけど君も行かない?」そう言ってネコ目の男は俺の腕にしがみついた男を強引に連れて行ってしまった。 助かった…。 多分俺が困っているの分かって助けてくれたんだよな…。  「正造。あんな良い相手がいても俺とセフレになりたいのか…。」 正造と二人きりになって初めの言葉がそれだった。 駅に向かう道の途中で思い立つ。 「なぁ、これから正造の家行ってもいい?久しぶりに話した気がするし!さすがにセックスはしないから安心しろ!」 終電がまだある時間だったが偶然外で出会えたことが嬉しくて口にする。 今まで他の奴を抱いていたとは思えないほど優しい顔をして頷く正造に気が緩むのが分かる。  正造の最寄りの駅に着くとコンビニで缶ビールを買う。 バーで飲んだアルコールはホテルで全て飛んでいた。 ほろ酔い気分で正造にもたれかかりながらダラダラと歩く。 湿気の多い風が肌をべたつかせる。 「さっき正造と一緒にいた男の子。俺あれ、めちゃタイプ。線が細くて華奢で。色白で弱そうなのに芯が通ってて。なのに意外と頑固で意地っ張りで…。弱いくせに強がって頑張り屋で…。最後まで…。」 自分が誰の事を言っているのか分かって嫌になる。 途中からさっきのネコ目の男の話からすり替わっている。 俺、本当未練タラタラでだらしねぇな…。 正造は何も言わずに相槌を繰り返していた。 それがまた自分の情けなさを増長させた。  家に着くと正造の勧めでシャワーを浴びた。 ホテルで浴びてきていたが帰り道でかいた汗を流せて気持ちよかった。 お風呂から出るとコンビニで買ってきたであろうパンツと正造の服が用意されていた。 本当何から何まで母ちゃんみたいなやつだな。 感謝しながらも袖を通す。 正造がシャワーを浴びている間に先に布団にもぐりこむ。 正造の香りがするようなしないような…。  ドライヤーの音がして飛び起きる。 妹の長い髪を乾かすのが好きだった。 濡れて束になった髪の毛が一本ずつのサラサラになる達成感が気持ちいいのだ。 正造からドライヤーを奪い取り髪の毛を乾かす。 俺より背が高いから乾かしづらい。 気が付いたのか正造が背を屈める。 バカにされたように感じて正造のお尻を蹴とばす。 驚きと悲しみ顔をしながら振り向く正造が可愛らしくて思わず笑みが漏れた。 濡れた髪の毛の隙間から正造の首が見える。 色白ではあるが骨が突き出ていて俺よりも太い首筋。 わざとドライヤーを頭に近づけると「あついあつい!」と身をよじる正造。 予想通りの反応に笑いが止まらなかった。  さすがに男二人で一緒のベッドに寝るのは狭かった。 ただでさえ正造がでかいのに正造は俺に背を向けて丸まったように寝る。 俺はわざと正造の背中に顔を埋める。 温かい。 クーラーの効いた部屋で正造の温もりだけを感じて眠りについた。
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