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自分がゲイだと気が付いたのは中三の時だった。
もともと女性に興味を持てなかったし男の骨ばった手や筋肉に魅力を感じていた。
そして決定づけたのはクラスメイトの男子で仲の良い奴だった。
告白されて素直に嬉しかった。
男同士だと戸惑う気持ちはあったが断る事は考えられなかった。
他の奴とは考えられないことも安易に想像できた。
その時初めて俺はずっと友人に恋焦がれていたことに気が付いた。
結局その告白は俺の妹に近づくための口実の冗談として流された。
一度は受け入れた気持ちがなかった事にされて「俺も冗談だよ」と笑った。
家に帰ってからは食事も喉を通らないほど涙がこみ上げてきた。
知らず間に気持ちが勝手に大きくなっていた。
気が付いた時には既にフラれていた。
始まってもいない恋は光を浴びることすら望めないまま朽ちたのだ。
高校に入って自分から好きになって思いを伝えた人とは付き合うことができたが半年でフラれた。
あの日の事を考えると今でも胸が痛む。
何が悪かったのかも、何が原因なのかも話すこともできずに連絡がなくなった。
「君ってゲイなの?」
感傷に浸っていると不躾な質問をされる。
一緒にいた鳥居に相手にするなと袖を引っ張られる。
「そうですよ。それが何か?」
挑発するように言い返す。
「俺、バイなんだけど…どう?」
俺より背が高く見下ろすようにヘラヘラと笑われる。
肩につきそうな明るい茶色の髪と左耳に光るピアスが軽そうな印象を増幅させている。
「俺、ゲイ専門なんで。」
中学時代の事を考えるとどうしても気が進まない。
自分が女子に劣っているとは思わないが男でも女でもいいなら女に行くべきだと思う。
それが世間の普通であり常識だ。
「じゃあ、女の子には手を出さないから。」
食い下がる男に嫌悪感を感じる。
軽そうな印象が信憑性を薄めている。
それ以上にタイプではないし何故俺にそこまで拘ってくるのか分からなかった。
「そういうことじゃなくて…。あんたみたいなのタイプじゃないんすよ。坊主にでもしてバラの花束でも持ってきてくれたら考えてあげますよ。」
呆れたように鼻で笑いながら思いつきで口にする。
鳥居が男に必死に頭を下げながら俺の腕を引っ張ってその場を離れる。
「もっ、マジでやめて!相手四年生だよ?来るもの拒まずで有名な先輩らしいし目つけられたらヤバいって!」
そんな事を言いながらも俺を置いていかずに待っていてくれたことを嬉しく思う。
鳥居とは大学で知り合った友人だ。
高校の時にゲイの友人がいたらしく俺のカミングアウトに驚くことなく相手してくれた。
鳥居自体はストレートで彼女持ちだ。
ゲイだからと言って男全般が恋愛対象になるわけではない。
こちらにも選ぶ権利がある。
鳥居も俺の好みとは違う人種だ。
そんな相手が友人として傍にいてくれるのは感謝しなければいけないだろう。
鳥居がまだ先ほどの男の話をしているが右から左へと聞き流した。
大学に入ってから自分の世界が広がった。
高校時代には部活に入っていたからできなかったバイトを始めた。
そしてそのお金でゲイ同士が出会うための場所、ゲイバーに足を運んだ。
最初足を踏み入れた時の感動は今も覚えている。
その場では同性同士が周りの目を気にすることなく触れ合っていた。
気味悪がるような人はおらず周りの人も優しくしてくれた。
それから俺は大学でもゲイであることを隠すのを止めた。
恋人を作らずとも、ひと肌が恋しくなればゲイバーを訪れた。
その場限りの関係も、干渉も束縛もされない関係は楽で心地のいいものだった。
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