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コンコン。
扉をノックする音。
深呼吸をして扉を開く。
そこにはタオルを抱え息を切らした男が立っていた。
「なんで…鍵…?」
呼吸を整えながら男が言う。
「こんな所、他の奴に見せらんないだろ。」
自分の吐いた物を指さし、また気持ち悪さがこみ上げてくる。
座り込む俺の洋服を脱がし濡れタオルで優しく拭かれる。
自分の方が汚れているにもかかわらず俺を優先して処理してくれる。
どこから借りてきたのか替えのシャツまで持ってきてくれていた。
俺の事が終わると自分と部屋の掃除を始めた。
さすがに全部やらせるわけにいかないので立ち上がろうとすると肩を押さえつけられ止められた。
「母ちゃんみたいだな。」
俺の言葉に嬉しそうに振り返ってニコニコと笑う顔。
こいつって怒ることあるのかな?
そんな考えが頭をよぎる。
いつの間にか開かれていた窓から心地のいい風が吹いてきた。
「タオルの処理してくる」そう言って、また俺を部屋に残して出ていってしまった。
一人で待っていると先ほどの事が頭をかすめる。
入れようと押し当てた自分のモノ。
そしてシャツを着たままの背中。
入れようとシャツを握る手に力を入れた瞬間…。
姿も大きさも違うはずなのに冷や汗が出てくる。
まだ気にしてんのかよ。
あの時の光景と一瞬ダブッた。
思い出さないように違う事を考えようとするが今度は鼻がツンッとする。
弱っ。
自分の弱さを自嘲するように笑った。
再び扉がノックされて鍵を開ける。
また走ってきたのか肩を揺らしている。
笑って見せようとしたのに上手く表情が動かない。
その瞬間、男に抱きしめられる。
温かい男の体温に身を委ねるように腕を回す。
細く華奢な男達とは違い背中が広く、強く抱きしめられると顔が胸に埋まる。
苦しくて上を向くと悲しそうな男の顔が間近に見える。
なんであんたがそんな顔してんだよ…。
そう思った瞬間唇が塞がれる。
温かくやわらかい感触。
俺だったら吐いた奴とはキスしたくないな…。
そう思いながらも与えられた温もりを離したくなかった。
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