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 目が覚めると頭がズキズキと痛む。 眩暈がして気持ちが悪い。 吐きそうになって立ち上がろうとして隣に人が寝ていることに気が付く。 見覚えのない部屋。 とりあえず口を押えてトイレを捜し駆け込む。 気持ち悪いのに吐けなくて苦しいだけの時間が続く。 自分で指を突っ込んでみるも上手くいかない。 トイレに座り込みえずいていると後ろから声をかけられる。 返事をすることもできずに便器にすがりつくと後ろから手が伸びてきて口の中に指を入れられる。 喉の奥を刺激されて一気にお腹から込み上げる気持ち悪さ。 手を抜こうとするが力の入らない手では振りほどくこともできない。 口に入れられた指の感触と共に便器に吐き出した。  「また、ごめん…。」 さすがに出会ったばかりで二回もゲロ処理をさせてしまい申し訳なくなる。 吐いて大分スッキリとした気分で改めて周りを見渡す。 スッキリとしたシンプルな1DK。 ベッドとテレビと小さめのテーブルが置かれている。 本棚には参考書ばかりで漫画など見当たらない。 必要最低限の物だけといった部屋だった。  お互いパンツ姿で正造は手を洗っている。 記憶をさかのぼっていくが飲み屋を出たところから記憶が飛び飛びになっている。  少しすると冷蔵庫を開ける音と共に正造が姿を現す。 「はい」と言って渡されたのはウコン入りの飲料水と湯気の立つアサリの味噌汁。 「本当母ちゃんだな…。」 そう言いながらも、ありがたく受け取る。 ウコンを一気飲みすると胸がスーッとするのが分かる。  正造がお酒に強い事を知っていたらお酒を飲む前に飲んでおいたのに気が付いた時には手遅れだった。 水のように酒を飲み、少し上がったテンションでいつも以上にヘラヘラする正造を見て俺もペースが上がってしまったのだ。 湯気の立つコンビニの味噌汁をすすりながら正造の背中を盗み見る。 筋肉質ではないが骨ばっていて腰のラインが綺麗だ。 足もすらりと長くすね毛が薄い。 どちらかと言えば抱きたいタイプではなく自分がなりたい理想の体型だった。  考える力が戻ってきた事を感じながら改めて自分の格好を確認する。 ゲイとバイがお互いパンツ一枚…。 同じベッドで寝ていたのならやることはやったのか? さすがに人を抱いて記憶が全くないなんてことはあるのか? 下半身に聞いてみようも二日酔いからなのか元気はなく瀕死状態だ。 「ねぇ。俺らしたの?」 味噌汁をすすりながら、ベッドに寄りかかり俺をニコニコと眺める正造に尋ねる。 正造は顔色を変えることなく「したよ」と答えた。 別にセフレなのだからしても問題はないが本当にしたのか確認したくてベッド際のごみ箱を覗く。 さすがの俺もマナーは守る人間だ。 ゴミ箱を軽くゆすって捨ててあるティッシュを揺らす。 「ゴムないじゃん!」 俺は正造に証拠を突きつけるように言い張る。 「俺がしてって…生でした…。」 正造の言葉に自分に問いかける。 もし、自分がシラフの時に言われていても断るだろう。 だが昨日は記憶がなくなるほどのお酒を飲んでいた。 何を言っても自分が信じられない…。 確かにゴミ箱にはティッシュが溢れている。 「中に出したの…?」 中に出すと体調を壊すと言う話はよく聞く。 「大丈夫だよ!自分で処理したから!!」 正造の返事に本当の事だったのだとうなだれる。 しかも全くしたことを覚えてもいない。 相手に失礼すぎる…。 正造に覚えていないことを伝えて謝るとヘラヘラと「またすればいいじゃん」と笑って返された。  寝起きでボサボサの髪を自分でとかす正造を見てクシを奪い取る。 正造を床に座らせて俺はベッドに座り込む。 後ろから絡まった部分をほぐすように優しくクシでとかす。 滑らかにクシが通るようになると正造は気持ちよさそうに天井を見上げた。 ネコみたいなやつ。 薄いピンク色の髪の毛があまりにも柔らかく、気持ちが良くていつまでもこうしていたかった。  「俺も一緒に行く!」 四年で就職先も決まっている正造が無理に登校する理由はないのではないかと思いながらも一緒に家を出る。 昨日のような何を話していいのか分からない緊張感はもうない。 鼻歌を歌いながら嬉しそうにズボンのポケットに手を入れ、今にもスキップしだしそうな正造の隣は心地よかった。 誰かに必要とされ求められる安心感。 まだ痛む頭をも癒してくれる。  大学構内のコンビニで偶然鳥居に会った。 正造と話しているところを見られたのか何事かと正造と引き離される。 用事を済ませてくると手を振る正造に軽く手を振りかえして別れた。 「なになになに?展開早くない?ってか名前呼びして平気なの?」 質問攻めの鳥居に本当に正造が名前で呼ばれるのを嫌がっているのだと知る。 「俺は特別だから。」 冗談ぽく意味ありげに笑ってみると鳥居は思った以上に安心したかのように息を吐いた。 鳥居は俺がゲイバー場に通っていることや特定の恋人を作らないことをひどく心配していた。 吉平や太一とも大学は違えど連絡は取っているが、そのことは隠していた。 俺の周りには心配性が集まるな…。 安堵する鳥居を見ながら少し罪悪感を感じつつも教室に向かった。  
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