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その日の事はよく覚えている。
駿君で自慰行為をしてしまった申し訳なさと、水野と駿君の関係を知ったショックから食事も喉を通らなかった。
一緒に食卓についいた駿君が分かりやすく心配してくれるのも今だけは、そっとしておいてほしかった。
駿君の後にお風呂に入る。
駿君と同じお風呂に入る事なんて今まで当たり前だったのに、さっきまで水野といた駿君を思い返してしまうと、のぼせてしまいそうだった。
湯船のお湯を両手ですくい上げては指の隙間からポタポタと音を立てて零した。
新たな駿君を知った喜びと、私ではない人が選ばれたショックが行き来していた。
本当にのぼせた私は母に言われるがままにソファに横になった。
駿君が心配して雑誌で私の顔を仰いでくれる。
私は頭がボーッとする中、駿君に手を伸ばした。
駿君は避けることなく私の手を受け入れる。
頭を預けているソファをトントンと叩くと呆れたように駿君は笑ってから腰を上げた。
母が冷たい水とおしぼりを持ってきてくれた頃には私は駿君の膝枕で目を閉じていた。
心配そうにおでこに置かれたおしぼり越しの駿君の手がさっきまで水野に触れていたかと思うと遅れてきた嫉妬心が胸を締め付けた。
私が簡単に触れられることのできる駿君と水野の知る駿君は違う。
きっと私には水野の知る駿君を知り得ることはできないのだろう。
それでも私は妹の特権でも何でも使ってでも駿君の傍に居たいと思った。
のぼせた体が落ち着いても私は駿君から離れるのを嫌がった。
特に変わった光景ではない。
一緒にテレビを見る時には寄りかかることもある。
寝転がる駿君の上に覆いかぶさることもある。
私が少しの下心を抱えながらやっていることも駿君にとっては全て無意味だった。
そういった意味では駿君は純粋なのだ。
妹の私に下心があるなんて思いもしないのだから。
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