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 駿君と同じ色の髪の毛はずっと伸ばしてきていた。 胸まで伸びた髪の毛をクシで撫でつける。 駿君も私の髪の毛を綺麗だと言って褒めてくれていた。 私は周囲から見られても『女の子』でいたかった。 可愛いものが好きで、か弱く見えて、守ってあげたくなるような女の子。 真っ直ぐに伸びた髪はその象徴とも思っていた。 風に吹かれるたびに揺れる髪の毛を綺麗だと思わない人はいないだろう。 今までだって駿君の友人やクラスメイトに交際を求められたことがある。 男の人は私みたいな女の子が好きなのだ。 普通なら女の子が…。 それなのに駿君には全く伝わらない。 私みたいな女の子に見慣れてしまって興味が男に移ってしまったのかもしれない。 それなら私にも責任がある。  私は深夜にベッドを出る。 家の中からは時計以外の音は聞こえない。 軽くノックをしてから駿君の部屋の扉を開く。 中は真っ暗で足場を確認することもできなかった。 駿君の寝息だけが聞こえてくる。 私はスマホで足元を照らしながら駿君に近づく。 軽く駿君の肩を揺さぶると一定だった寝息が途切れて駿君の目がうっすらと開く。 「怖い夢見た…。」 そう言うと当たり前のように布団を持ち上げて奥にずれて私の寝るスペースを作ってくれた。 私は駿君にぴったりとくっつくようにして心臓の音を聞いた。 心地よい一定のリズム。 駿君の手が私の頭を撫でてくれる。 駿君の胸に顔を埋めてわざと胸を押し付ける。 背中に回した腕は抵抗することなく受け入れられた。 やっぱり駿君も私のこと気が付いていないだけで好きなんじゃないかと思ってしまう。 普通高校生同士の兄弟は抱き合って眠ったりなんてしない。 顔を上げると駿君の顔がすぐそばにある。 眠っているだけなのにキスを待っているかのように瞼を閉じている。 今なら駿君にキスができる…。 小さい頃は駿君ともよくキスをした。 子供の頃は素直な愛情表現ができていたのにいつから駿君を意識しだしたのだろう。 頬に手を伸ばして触れてみても反応はない。 頭に置かれた手も動く事はない。 こんな意識のない駿君にキスをした所で満足できるわけがない。 駿君に思われて初めてキスだって意味を持つのだ。 私は駿君の胸の中で眠りについた。  朝起きてからも駿君は普通だった。 昨日の事もしっかり記憶にあったようで驚くことなく挨拶をしてくれた。 私がベッドから出ないでいると、目の前で当たり前のように着替えはじめる駿君を盗み見る。 いつもは服に覆われて隠されている場所も駿君は私に見せてくれる。 今すぐ触れてみたい。 私よりも筋肉質で固そうな駿君に触れたい。 私は思うことしかできないのに水野は触れているのかと思うと嫉妬心が渦巻いた。 そして、今まさに私が寝ている場所で駿君と水野が触れ合っていたのかと思うと泣きだしそうだった。 こんなに傍に居るのになぜ私ではいけないのだろう…。
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