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 告白してから返事をもらう前までに一度、水野は駿君に会いに来ていた。 駿君と水野の関係を知らない設定ではあるが水野の行為は許せなかった。 私の告白を保留にしておきながら本命の恋人の所にも行っているなんて良心が痛まないのだろうか。 私もいる家によく来れたものだ。 毎度の事のように駿君の部屋に聞き耳を立てる。 最初は世間話や近況を語っていたが途中から口数が減っていくのが分かる。 私に傾いていた水野の気持ちが一気に駿君に戻っていくのを感じた。 私は駿君のいない時の代理なだけで本当に好かれているわけではない。 水野の事が好きなわけではないのに何か負けたかのような気持ちが胸を締め付けた。  水野の気を引くのにはもっと距離を詰めなくてはならない。 だからと言って駿君と水野がしているようなことは死んでもしたくなかった。 何か方法がないかと思いスマホで別れさせ方を検索してみる。 結構残酷なやり方まで載っていた。 できれば駿君にはバレずに傷つかないようなやり方が良い。 水野はどうでもよかった。 傷ついて立ち直れなかったとしても私の知るところではない。 検索した方法の中に思い当たるものがあった。 私は過去のメッセージ画面のスクリーンショットを取って密かに笑った。  翌日、水野を人気のない所に呼び出して画面を見せた。 「駿君が付き合っている人と別れたいらしくて…」と相談風に話してみるが水野の顔色はどんどん悪くなっていく。 水野に見せたやり取りは実際に駿君と交わしたものだった。 丁度私たちの試験期間と駿君の受験勉強の為に一番会えなくなっていた期間の話だった。 この話題を送ったのは私の方からだった。 駿君の水野への気持ちが少しでも冷めていないかと期待して送った物だった。 駿君は家でも付き合っている人がいることを隠してはいなかった。 男であること以外。 だから『彼女とはどう?』とメッセージを送った。 『最近避けられてるのか全然会ってない。もうダメかな。』ときた。 当時の私は駿君と水野の間に隙間ができ始めていたことに喜びを隠せなかった。 水野に見せたスクリーンショトッは駿君が『大学入るまでかな』と送ってきた物に私がスタンプを返したところまでだった。 本来その後には続きがあった。 『大学進学決まったらいろんなところに遊びに行くんだ。今までの時間を取り戻すんだ。』 駿君にこんなに思われているのに疑っちゃうなんて水野に駿君はもったいないんだよ。 「どうアドバイスすればいいか分からなくて…。」 そう話しかけても水野の耳には届いていないかのようだった。 昨日駿君と会ってたんだもんね。 いつものように私が家に居てもお構いなしにイチャイチャしてたんでしょう? それなのに裏ではこんなこと言われているなんて思ったら疑心暗鬼にでもなっちゃうよね。 私は水野の反応を黙って観察していた。 必死に自然を装おうとしているのがバカらしく見えてくる。 自分の恋人の別れ話の相談に乗るなんて中々できない体験だ。 ゆっくり考えてもらおうじゃないか。 休み時間の終わりのチャイムが鳴るまで水野は何も口にしなかった。 私は一応「駿君には秘密にしてね」と言っておいたが実際バレる確率も高かった。 水野が駿君に私から聞いたことを話せば誤解は解けて私は駿君に怒られて二人の交際は続く。 それから私がどれだけ邪魔をしようとも信じてもらえなくなり、駿君にも距離を取られてしまう。 これがバッドエンド。 元々私に用意されたハッピーエンドは存在しない。 それならできるだけの事はしておきたかった。 少しくらい他人を不幸にしたっていいじゃない。 私には望めないものばかりなのだから…。
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