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[6]
水野は私と話をしてから分かりやすいほど落ち込んで悩んでいた。
話しかけても上の空でまともな答えは返ってこなかった。
もし誤解が解けたとしても水野にこれだけのダメージを食らわせられたのは爽快だった。
水野は何かを決心したかのように私を人気のない所に誘いだしたかと思うと頭を下げてきた。
「やっぱり君とは付き合えない。」
好きでもない相手にフラれるのは気分のいいものではなかった。
ただ傷ついたふりをして笑って「ありがとう」と言った。
私を振った事にも罪悪感を感じればいい。
あなただけが幸せになる世界は無いんだよ。
二人が別れたのはそれからすぐだった。
たまたま塾が休みになって部屋にこもっていると誰かの来客に応える駿君の声がした。
私は息を殺してバレないように壁から覗いた。
水野だった。
雪が降っているのに傘も差してこなかったのか肩や頭には軽く雪が積もっていた。
まだ何かを悩んでいるかのような姿を見ては口元が歪んだ。
部屋に通された駿君と水野の会話に耳を傾けるつもりが静かな部屋からは何も聞こえてはこなかった。
少しするとベッドの軋む音が聞こえてきた。
何が起こったのかと思いドアをゆっくりと開けた。
ドアの隙間から見えるのは駿君を押し倒した水野の後ろ姿だった。
お互い相手を求めるように触れ合っていた。
離れていた時間を埋めるようにして相手を求める駿君と水野。
体勢が代わり水野のお尻に駿君の物が当てられた。
最後までするところを今まで見たことも無かった。
男同士なんて気持ち悪いと思っていたが好きな人同士のする行為は眩しく見えた。
離れた体の距離を埋めるように相手に触れたいと思う気持ちは私にも分かる。
たまたま好きになった人が同性だっただけで悪い事など何もないのだ。
それが駿君以外だったら…。
さすがに見るのを止めようと思いドアを閉めようとしたときに水野が駿君を拒むように駿君の手を止めた。
気遣う駿君に水野が発したのは別れの言葉だった。
駿君は信じられないと言ったように口を開いては閉じていた。
水野が身なりを整えると私は急いで自分の部屋に戻った。
それから少しして水野が家から出ていく音がした。
隣の部屋からは物音一つしない。
私は自分の存在がバレないように身動き一つ取れないでいた。
ガタガタと駿君が動く音がしたかと思うと間も無く駿君が声を上げて泣くのが聞こえてきた。
大きくなってからこんな風に泣く声を聞いたのは初めてだった。
声を我慢することなく、しゃっくりをあげながら時折「なんで…」と声が聞こえてくる。
私は駿君の初めて聞く泣く声を聞きながら一緒に泣いた。
水野が家を出て行った時に感じていた満足感はすっかり消えていた。
今は大切な人が大きく傷ついているのを聞いているのが辛かった。
水野に本当の事を話して戻ってきてほしいと思えるほどだった。
それでもそれをしなかったのは私のプライドと駿君への愛情が邪魔したのだろう。
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