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 正造とは大学内で会うばかりで外で会うことはなかった。 俺の時間割を把握しているのか待ち伏せているのか一日一回は顔を見ているような気がする。 手を振るだけで終える日もあれば一緒に食堂に行ったりしていた。 スマホでの連絡もマメだった。 毎日のように日記のようなメッセージを送りつけてくる。 俺は既読を付けて返事は送らなかったが文句を言われた事は一度もなかった。 メッセージの最後にはテンプレのように『大好き』や『愛してるよ』の言葉。 重さも感じたがここまで尽くしてくれるような男は女が放っておくとは思えなかった。  バイトの休みの日に久しぶりゲイバーに訪れる。 正造に会ってから少しの間、足が遠のいていた。 正造と体を交えたのはお酒で記憶のない一回きりだったが正造と話しているだけで満足だった。 正造に性欲が沸かないと言うのが第一なのだろうが、気を使わない相手と話をして笑ってバイトで体を動かしての毎日で意外と充実しているように思えた。 ゲイバーと言っても怪しげな店ではない。 普通の男女のカップルもいるしお酒を飲みに来ただけの奴もいる。  俺はカウンターに腰かけお酒を頼む。 グラスの下に置かれたコースターをわざと逆にする。 それがここでのルールだ。 他のゲイバーには行かないので知らないがここの常連が教えてくれた。 ゲイで相手を探している人はそうすると。  少しするとわざわざ隣に腰かけてくる男の姿。 「タチ?」 その言葉に頷く。 けれどあまり好みではない。 誘いを軽く断る。 ここでは誘われるも断るも当然ある。 なるべく相手を傷つけないようにする為に気がないのならあまり会話を交わさないのもマナーだ。  カウンターに頬杖をつき辺りを窺う。 同じカウンターの隅に座る小柄の男性。 俺は手元の酒を持って彼に近づく。 店内の薄暗い照明でぼんやりとしか見えなかった顔がハッキリと見える。 ゆるくパーマのかかった黒髪に大きな瞳、華奢な体つきで挑発的に見上げてくる視線。 「どう?」 俺は持っているグラスを軽く揺らす。 「…いいよ。」 声をかける時は少なからず緊張はする。 断られれば少しはショックだし、好みの相手を見つけた時の喜びは隠せない。
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