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美術室でしか会わない俺たちのそもそもの始まりは小学生の時。
今でこそ勉強も運動も得意で人徳もある俺だが、小学生の俺はチビで痩せっぽちで、勉強も苦手で力も弱く体育も苦手だった。自分に自信が持てなくていつも下を向いていた。気の強いクラスメイトたちに詰られるような、言ってしまえば、軽いイジメを受けている子ども。
それを助けてくれたのが、智瑛だ。
智瑛は勉強もできて運動も得意だった。足も早かったし背も高くてカッコいいクラスの人気者。
智瑛はたまたま席替えで隣の席になった俺をいつも気にかけてくれて、さりげなく仲間に入れてくれた。友達らしい友達がいなかった俺はそれだけですごく嬉しくて、すぐに智瑛の金魚のフンと化したのだった。
小学5年生になって俺が親の転勤で引っ越すことになったとき、俺は智瑛と離れ離れになるのが嫌で散々ゴネた。それを助けてくれたのもまた、智瑛だった。
『中学は学区の学校に行くから、高校は同じところに行こうね!』
あの時の智瑛の笑顔と指切りをした小指の感触は今でも覚えている。
俺は智瑛と同じ高校に行くため、日々勉強して体を鍛え、どんな名門校にも受かるように努力した。
そして晴れて智瑛と感動の再会を果たした俺は感情ののままに告白し、まさかのオッケーで舞い上がった。
しかし、顔こそ昔の面影を残したままイケメンに育った智瑛は、アイドルの応援法被を着てハチマキを頭に巻き、ペンライトを両手に持ってキレッキレのオタ芸を披露する見事なオタクに成長していたのだった。
───
(しかしアイドルの応援法被着てオタ芸しててもカッコよく見えてしまうんだから幼い頃の刷り込みって怖い…)
一人寂しく帰路につきながら、今日見せてもらった新デザインの法被を着た智瑛を想像する。とんでもなくダサいはずなのに、何故かカッコよく見えてしまうのはきっと智瑛が俺のヒーローだからだ。
そんなカッコいい俺の恋人をみんなにも自慢したいのに、智瑛はそれをガンとして聞き入れない。
俺も無理に強要は出来なくて、付き合い始めてもコソコソ短時間会うだけ。そんな関係だから、付き合い始めてしばらく経つのに俺たちはキスもしていない。
けどキスをまだしていないのも、本当は別の理由があるんじゃないかと思い始めている。
寮の部屋に戻ると、俺はまずクローゼットを開ける。白やピンクのワンピース、花柄のフレアスカートに可愛いブラウス。その下にある箱にぎっちり詰まった、化粧道具やスキンケア用品。
俺はそのキスが出来ない原因を取り除くため、今日も女装のスキルを磨くのだ。
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