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よし、終わりだ。 トントンと机で紙の束を整える音が静かな生徒会室に響くと、会計の新井が抗議の声を上げた。 「えー、浅尾もう終わり?手伝ってよー!」 僅かに振り返って、新井のデスクに積み上がった書類を冷ややかに一瞥する。アレではいつになったら終わるやら。 「冗談じゃない。無駄口叩いているからそうなるんだろう。俺はやりたいことがあるから先に帰る。」 ブーブー! 新井の態とらしい野次を無視して、さっさと生徒会室を後にした。 ─── 成績は毎回片手の範囲内。運動部の助っ人が務まる程運動神経もいい。1年の頃から生徒会役員を務め、今期は責任も大きい副会長の座についている。先生方からも信頼されているし、いつも周りには人が絶えない程度には慕われている。 自惚れでなく、自分はなかなかに高スペックだと思う。 そんな俺浅尾(あさお) 優太(ゆうた)にはちょっとした秘密がある。 生徒会の仕事を早々に終えて向かうのは美術室。美術部もなく週に1度の選択授業でしか使われないこの教室は、秘密の逢瀬にはぴったりなのだ。 「智瑛(ちあき)!」 少し油臭い部屋の中でいつも絵を描いているこの人が、俺の秘密の恋人の沖野(おきの) 智瑛(ちあき)だ。 「あれーまた来たの?お仕事終わったの?」 「終わらせた。」 「誰にも見られてない?」 「当たり前だろ。」 軽く微笑んで、またスケッチブックに向かう智瑛の隣に腰掛ける。 智瑛の横顔が、堪らなく好きだ。 精悍な顔を隠す真っ黒い長めの髪を耳にかけ、制服のシャツの袖を捲り筋張った男らしい腕が曝け出されている。その腕の先には、今日は鉛筆。 シャッシャッという心地いい音は良い子守唄だ。 「今日は、何描いてるんだ?」 「次の連休であるミオちゃんのコンサートで使う法被のデザイン。」 「あっそ…」 「ねぇ優太、この三つの中ならどれがいいかなぁ?」 ニコニコと上機嫌にスケッチブックを見せてくる智瑛に、俺はちょっと複雑な気持ちを抱きながら真ん中に描かれたデザインを指差した。 智瑛は、所謂オタクという人種だ。 それも、かなり重度の。
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