第一章 目覚めれば美少年の家でした

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第一章 目覚めれば美少年の家でした

「あづい……」  高校が夏休みに入った七月末。  私はふらつきながら、絶好調な真夏の太陽が照りつける路上を歩いていた。  両手にビニール袋を下げているんだけど、これがまた重い。  いくら隣町のスーパーが超激安価格のセールを開催したといっても、これはちょっと買いすぎた。  まだ五分しか歩いてないのに、汗がとめどなく噴き出して、髪やシャツが肌に張り付いて気持ち悪い。  顔は発火したように熱く、汗が顎を伝い落ちていく。  夏に備えて髪をボブにしたのは間違いだった。友達はさっぱりしたねって言ってくれたけど、括れる程度には残しておけばよかった。  目の前、二十メートルほど一直線に伸びる住宅街の細い路地には、私の他に人影はない。  賢明な人たちは涼しい室内に退避しているらしい。  セミの声に混じって、クーラーの室外機の稼動音が聞こえる。  ちょうどお昼時だから、昼食を取っている人もいるんだろうな。  お母さんの作ったそうめんとかね。いいなぁ。  氷を浮かべたつゆに冷たいそうめん……素敵……ああ、ダメダメ、涎が出てしまう。朝は食欲がなくてコーヒー一杯で済ませたから、お腹が空いてるんだよね。  よし、今日の昼食はそうめんにしよ……う?  不意に、視界が歪んだ。  太陽の光が、街路樹が、何の変哲もない道路標識が――全ての風景が、飴細工のようにぐにゃりと引き伸ばされる。  あ、まず……  ふっと意識が遠のいて、私はその場に倒れ込んだ。  ……身体が揺れてる。  夢と現の狭間で、私は薄く目を開いた。  どうやら私は誰かに背負われているようだった。  身体は鉛のように重くて、指一本動かせない。  でも、私を背負ってくれている誰かの背中の大きさと、その温もりは感じることができた。  ……誰だろう?  その人が歩くたびに私の身体が揺れる。  側頭部に触れる横顔から、少し苦しそうな呼吸音がする。 「……重い」  小さな、ぼやくような呟きが聞こえた。  低い声だ――男の人みたい。  幼い頃のことを思い出す。  夏のお祭りにはしゃぎ疲れて眠ってしまった私を、お父さんがこんなふうに背負ってくれたっけ……  あのときの光景と、いまの光景が重なる。 「……お父さん?」  自分の耳でも聞き取れないような、弱々しい声が口から漏れた。  でも、その人の耳には届いたらしく、彼が振り返ったような――そんな気がしたんだけど。  そこで私の意識は再び途切れた。
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