第二章 少しずつ縮まる距離

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第二章 少しずつ縮まる距離

 ストロベリーケーキは地元の駅から二駅離れた繁華街にある。  そこで私たちは、駅のすぐ隣にあるさくらば公園を待ち合わせ場所にした。 『さくらば』の名前が示す通り、この公園は桜並木が見事で美しい。  春になると遠方からお花見目当ての人がやってきたりもする。  私も春にはお母さんが作ってくれたお弁当を広げて、家族で楽しいひと時を過ごした。  漣里くんたちもお花見はしたのかな?  そんなことを考えながら、緑の葉が青々と茂った桜並木を歩き、左手の腕時計を見る。  現在時刻は午後一時四十五分。  待ち合わせの十五分前。  よし、余裕。  小さく頷く。私は遅刻をしたことがないのがささやかな自慢だった。  どんなに遅くても待ち合わせの五分前には着いている。  アブラゼミの鳴き声で公園は賑やかだ。  茹だるような暑さにも負けず、綺麗に舗装された園内の歩道を数人が歩いている。  友達と談笑している若者、子どもの手を引いて歩いているお父さん。  もうお盆休みなんだろうか。大企業って、確かお休みが長いんだよね。  遊具のあるゾーンを抜けて、噴水の前に着いた。  照りつける日差しを浴びた噴水の縁には、待ち合わせ中らしい若者が二人と、二組のカップルが座っている。  漣里くんの姿はない。  気を抜きかけたそのとき、噴水の斜め前、大きな欅の影にあるベンチで漣里くんを発見した。  ……あ。いたんだ。  漣里くんは真面目な性格だから、律儀に時間を守りそうだと思ったんだよね。  十五分前ならさすがに、と思ったけど、もっと早く来ればよかった。  彼は噴水の縁に座っている若者と同様、俯いて携帯を弄っていた。  ゲームでもしているらしく、指が単純なスクロールではない動きをしている。  彼はレイヤードの白いシャツに紺色の半袖シャツを羽織っていた。  下は黒のスラックス。胸にはシルバーアクセサリー。  外出するためか、これまでで最も外見に気を遣っているように感じた。  彼がアクセサリーをつけているところなんて初めて見る。  もしかしたら響さんが全身コーディネートしたのかもしれない。  失礼だけど、漣里くんは流行やファッションに興味がなさそう。いつも決まってシャツにジーパン姿だったし。  この前、アクセサリーは煩わしいから嫌い、腕時計すら嫌だって言ってたしね。  ともあれ。  ……改めて見ると、本当に格好良い人だなぁ。  伏せられた長い睫毛。大きな瞳。形の良い唇。すらりと伸びた四肢。  ありふれた公園の風景の中で、彼だけが特別に浮かび上がって見える。  並んで立つのが申し訳ない平凡な容姿だとしても、彼女役っぽいことをする以上、せめて振る舞いや言葉遣いはできるだけ清楚に、可憐に、美しく……!  持っているバッグの紐をぎゅっと握り締める。  今日私が悩みに悩んで選んだのは、薄いピンクをベースにした花柄のワンピース。  胸元には赤いリボン、裾には控えめなフリルがついている。  このワンピースは試着したとき、お母さんも店員さんも褒めてくれたから、少なくともそんなに変な格好ではない……はず!  私は深呼吸してから、彼の元へと歩き出した。  あと五歩というところで、接近に気づいたらしく、漣里くんが顔を上げた。
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