第三章 空に花が咲く夜に

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第三章 空に花が咲く夜に

 待ちに待った花火大会、当日。  天気は快晴。絶好の花火大会日和だった。  夏祭りがあるためか、郊外のアミューズメントパークは午後から徐々にお客さんが減っていった。  終業間際にもなると暇な時間も増え、商品を綺麗に並び替えたり、カウンター周りを掃除する余裕もできた。  五時になって仕事が終わると、私は大急ぎで制服を着替えた。  できれば今日はいつも乗っているバスの一本前のバスで帰りたい。  走ればぎりぎり間に合うか間に合わないか、そんな絶妙な時刻で出発するバスがあるのだ。  今度こそ私が先に着いて、漣里くんを待っていたい。  この日のために買った浴衣を着て、綺麗に着飾って、歩いてきた彼に微笑んで手を振る。  そんな夢のようなシチュエーションを実現するためにも! 「お疲れ様でしたっ!」 「うわ、深森さん早っ!? お疲れー!」  バイト仲間の声を背中に受けながら、私は更衣室を飛び出し、バス停に向かって走った。  どうか間に合いますように……!  息を切らし、腕を振って、持てる力の全てを出し切る。  その結果、バスに乗れた。  つ、疲れた……。  全速力で走ったせいで呼吸が苦しい。吐き気すらする。  それでも、バスで三十分も揺られていれば体調は完全に回復した。  運転手さんにお礼を言って駅で降りたとき、腕時計は五時五十分を差していた。  アパートでシャワーを浴びて、着替える時間を考慮したとしても、七時の待ち合わせには余裕で間に合う時間だ。  アパートから澪月橋までは歩いて二十分もあれば着く。  お祭りがあるためだろう、駅前は混雑していた。浴衣姿の女性も目立つ。  もう出店が出ているらしく、片手にヨーヨーを下げていたり、綿菓子を食べている子どももいた。  漣里くんと出店を見て回るの、楽しみだなぁ。  こんなに楽しみな理由はわかっている。さすがにもう自覚していた。  ――私は漣里くんのことが好きだ。  例えばバイト帰りの夜、ふと空に浮かぶ月を見て、彼も同じ月を見てるかな、なんて思ったり。  テレビでスイーツ特集をしていると、彼が喜ぶ姿を想像しながらチェックしてしまったり。  私の心の中にはいつも彼がいて、彼のことばかり考えている。  たとえ友人としてでも、好きな人と一緒に花火大会に行けるなんて、私は幸せ者だ。  これからのことを考えると、自然に頬が緩んでしまう。  いけない、変な人だと思われる。  人の波に乗って歩きながら、頬を揉んでいると。  鞄の中で携帯が鳴った。  浮かれた気分が一瞬にして吹き飛んだ。  バイト先であるコンビニからの着信を告げるメロディだったからだ。
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