第四章 不穏から始まる二学期

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第四章 不穏から始まる二学期

 響さんが通う大学は9月下旬まで夏休みだそうだ。  高校もそれくらい夏休みが長かったらいいのに。  そんなことを思いながら、私は久しぶりの通学路を歩いていた。  今日も暑い。  9月に入ったとはいえ、太陽はまだやる気を見せている。  予報では今日も三十度に達してしまうらしい。  地球温暖化現象はなかなか深刻な問題のようだ。  駅からの合流地点を過ぎると、視界の中に同じ制服を着た生徒の数が増えた。  時海高校の制服は紺色のセーラー服。  臙脂色のリボン、スカートには白のラインが一本入っている。  対となる男子は学ランで、夏服は半袖のカッターシャツ。  通りを行くのは、私と同じように一人で歩いている生徒。友達を見つけて駆け寄り、和気藹々と話し始める生徒。歩きながら携帯を操作している生徒。ヘッドフォンで音楽を聴いている生徒。  色んな生徒がいる中―― 「真白ー」  後ろから声をかけられ、私は足を止めて振り返った。  予想通りの人物の姿に、顔を綻ばせる。 「みーこ、久しぶり」 「うん、おひさー!」  高く結い上げたポニーテイルを揺らし、小走りに駆けてきたのは私の親友の中村美衣子(なかむらみいこ)、通称『みーこ』。  中学からの付き合いになる彼女は目鼻立ちが整った、かなりの美人さん。  女子にしては身長も高く、理想的なモデル体型をしている。  ただし胸は控えめで、それが悩みらしい。 「もう足は大丈夫なの?」 「うん、すっかり。この通り」  左足のつま先で地面を軽く叩いてみせる。 「そっか、それは何よりだわ。で? 真白、彼氏できたんでしょ、誰なの?」  夏休みに電話で彼氏ができたことを報告すると、彼女は全力で食いついてきた。  詳しくは会ったら話すよ、と答えたから、気になって仕方なかったみたい。  追及する彼女の目はきらきらと輝いてすらいた。 「あ、うん、えーとね」  気迫に押され、両手で彼女をガードしつつ一歩下がる。 「名前は成瀬――」  その名前を答えようとした、そのときだった。 「深森さん」  透明な水のような、酷く美しい声が耳に届いた。  みーこと揃ってそちらを見れば、葵先輩が立っていた。  少し離れた場所、葵先輩の斜め後ろには漣里くんもいる。  視線が合ってもにこりともしないのは彼らしい、けれど。  ……あれ?  そこで私は、違和感を覚えた。  漣里くんに愛想がないのはいつものことだけど、今日は特別にその眼差しが冷たく感じる。  交流を拒絶するような瞳をしてる。  おかしいな、昨夜のLINEでは普通に話してたのに。  学校面倒だな、なんて愚痴ってたのに。  冷たいと感じるのは気のせい……だよね?  他の生徒の目を気にしてるとか、寝不足で不機嫌だとか、とにかく他の理由があるに決まってる……そう思いたい。  視線が合ったのはほんの一秒のことだけで、漣里くんはすぐに視線を逸らしてしまった。 「成瀬先輩……!?」  不意に現れた全校生徒の憧れの的、男性ながら高嶺の花とでもいうべき葵先輩に、みーこが氷みたいにかちんと硬直した。  顔が真っ赤に染まっている。  周りにいる生徒――主に女子――も似たような反応だった。 「おはよう」 「おはようございます、成瀬先輩」  葵先輩の、王子様のごとき優雅な微笑を受けて、私は軽く会釈した。 「夏休みも終わっちゃったね。また今日からお互い、学校頑張ろうね」 「はい」 「じゃあ」  葵先輩は綺麗な微笑を残して立ち去った。  漣里くんも先輩と一緒に歩いていく。  ……あ、漣里くんと挨拶できなかった。残念。  さっきの様子も気になるし、また後でメールしてみよう。  喧嘩とかしてないはずなんだけどな。  私、彼の機嫌を損ねるようなこと、何かしたっけ……?
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