天使の小道具

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 悠太は背中のゴム紐を感じながら、玄関のドアを開けて通りを歩き出す輝と妙子を見送り、セレモニーホールへ戻って喫煙室へ入り、隅のテーブルの上に四角い革鞄を置いて手紙を取り出す。 『ケンジくんはKEELS BARで手紙を見る事はできない。だってマリアと過去へ戻るのですからね……』  もしくは死ぬかだが、悠太は失敗は考えずにこの手紙にメッセージを添えて、復活した賢士へ渡す方法はないかと考えた。  四角い革鞄に入ったアイテムは霊界と現実世界を繋ぐ、不思議な力を秘めている事は間違いない。悠太は筆記用具を床にばら撒いた時に、パイロットの万年筆があったのを思い起こし、それを手に取って封筒の中の便箋をテーブルの上に広げ、万年筆で重要なメッセージを書き込む。 『後は君にこの手紙が届くように、運を天に任せるしかない……』  便箋を封筒の中へ戻し、四角い革鞄の内ポケットの奥へ仕舞い込んで、パイロットの万年筆と白い手袋を元の位置に正確に戻してから鞄の蓋を閉め、両手を握り締めて神に祈った。 『僕にできる事は此処までだが、ジーケンとマリアなら奇跡を起こすと信じています』
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