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憧れの人がすぐ目の前にいて、少し髪が伸びただけであの頃と全然変わってない。悠太は三人の後ろでぴょんぴょん跳ね、受付では賢士に近寄り、記帳する美しい横顔を頬に手をあてて眺め、うっとりとした表情でこの時間を楽しむ。
そして三人が香典を渡して葬儀場に入って行くと、悠太もその後から中へ入り、賢士たちは一般席の後ろの方の席に着き悠太は祭壇へと進む。
「通夜が終わったら、手紙渡すからな」
「ラブレターらしいよ」
「葬儀の場だ。口を慎め」
賢士は悠太の想いが嘘じゃなければ同性でも真摯に受け止め、この席で揶揄うのは礼儀に反すると真剣な表情で注意した。
『男だったよな?』と、輝に言ったのは本心ではない。
悠太は自分の遺体が入っている棺桶の上にちょこんと座り、祭壇から会場の席を見回して出席者の殆どが親戚だったが、急な葬式に数十人が集まってくれて嬉しかった。
最前列に両親が座り、一人息子の突然の死に項垂れて、親不孝だと遺影写真を振り返り、本人が暗い顔でどうすんだよと、写真と同じ笑顔をみんなに振り撒く。
そこへ僧侶が到着して葬儀担当者の進行で読経が唱えられ、喪主・遺族からの焼香が始まり、昨夜知り合った青年が翼を背中に装着して天井から舞い降りて来た。
悠太はその四角い鞄を持つ『天使』を見て、悲惨な事故で死んだ経緯と、幽体になって天使に出逢った事を想い起す。
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