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「...なんだこの手紙...」
クシャリ、と握り潰された手紙は、まるで、自分の心の中の苛立ちを思わせた。
バンっ!と、家の扉を開け、荷物を投げ入れる。
「母さんっ! 俺、美継(みつぐ)の所に行ってくるっ!」
そう言って、駆け出そうとした。
「ちょっと待てっ!ほれっ!お前に、少しだけ大人の気分をさせてやるっ。
いいか、カオル。 美継君を連れて帰ってこなかったら...わかってるだろうなっ」
慌てて出てきた母さんは、ポンと財布を投げてきた。相変わらず、そとに出歩くには不向きな恰好も、一緒に暮らしていれば慣れてくる。
俺の純情をかえせ。憧れを返せ。
渡された物を見て
これ...。
それは、俺がお遣いに行くときの専用の財布。いつまでも、小学生と同じように扱ってくる母親はいつもは必要な分しか入れられていないが今は、どう見ても大金が入れられているのが分かった。
まるで、俺があいつを追いかけるのがわかってたような母さんの読み悔しさが起こるけど、それは後でもいい。その後のことは、自分に任せておけと、言うような顔に不安が消えていく。
「あぁ、わかってる。じゃっ!」
「ほい、行ってらー。 少しは、漢、みせてこいやぁ」
家の中から応援する母の声。
俺は厚みのある財布を握り締めて走しりだした。
手紙には、今日の最終便で発つって書いてあった。
いつものような一つ一つ大切に書かれた文字ではなく慌てて書いたような文字に胸騒ぎが起こる。
スマホの待ち受けで時間を確かめる。
間に合うはずだ。
タクシーが捕まる所まで走っていき、そのまま、空港に向かった。
毎年、花火を一緒に見ると約束したのにっ!
頭の中はそれでいっぱいだった。
大人に隠れて唇をあわせる。
空港までの時間がもどかしい。乗り物に乗っている間は、湧いてくる苛立ちを抑えることで必死だった。支払いを済ませて走りだす。そうして、空港にたどり着いた。
空港自体初めての俺は、どこを探せばいいのかわからなかった。見たことのある頭の形だけを求めていた。
これでも、母親の血が流れているのだ。そう思うと、見つけれる自信だけはあった。
ー!
消えるようだけれど、微かにあいつの声が聞こえたような気がする。
身体は無意識に向かっていて走り出していた。
足音に驚いている客の視線なんて気にしていられない。
何としても大切な物をつかまえるんだ。
ー!!
微かに聞こえるあいつの声は、どこまでも頼りなく、そして俺の心をかき乱す物だった。
「美継っ!!!」
たくさん人が行き交う空港で俺は呼んだ。
もう一度、呼びかける。
「美継っ!」
「ふぇぇ...」
ー!!!
ブースの数でいうと3つ前から消えそうな声がした。
急いで駆け寄り美継らしき人間に近付いた。
見覚えのあるフードに、身体が反応した。
「美継っ!」
深く被せられたフードを取ると美継は、マスクをつけられていた。
よく見ると...口元、塞がれてる?
怯えた目に、涙で潤んだ瞳、そして、震える身体。
ー?!
「...君は一体誰かな? 私は、この子の親だ。 君の勝手な行動がどんなことを招くかわかっているのかね?」
ー!
カチンと頭にきた。
「ふざけんじゃねーぞ。 自分の子どもかもしれねーけど、本人が嫌がってんだろ?
どう見ても、これは合意じゃねぇ。
こんな風に、閉じ込めて何が親だ。 こいつの傍にいた奴は、そんなことをしたりしなかった。 美継っ! 立て。 帰るぞ」
マスクを取ると、口元にガムテープなんて貼られていた。慎重に剥がすと、美継は明らかにホッとした様子を見せていた。
周りの人間は、もめ事に関わりたくないと遠巻きに様子を伺っている。
「ちょっと、君っ?!」
俺は喚く自称親を無視して美継の手を掴んだ。
「ー!イタっ!!」
ー?!
美継の手首には、真新しい痣が残っていた。
「...オイ、これどうした。 お前、こんなものをつけるほど、間抜けじゃねーよな。
誰にやられた...。 ・・・・まさか...っ!?」
美継の目を見てすぐに気づいた。この男がやったのだと。
目の前が真っ赤になるぐらいの怒りが湧いた。
けれど、今、しなければならないことは、美継をここから連れ出すことだ。
「...美継、走れ。 このジジイから逃げるぞ」
手を伸ばした俺の手を美継は取って頷いた。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
「...ハァハァ...美継、大丈夫か? 痛む?」
騒ぎ立てる男を無視して美継を連れ出すことに成功した俺は、駅まで逃げてきた。
美継の顔は、涙を拭きまくったのだろう、目の周りがこすれて赤くなっていた。
「...怖かったな」
美継は、黙ったまま頷いた。
「...手紙を読んだ時は驚いたけど、お前も、少しは俺に教えろよな。
水臭いぞ。」
美継のおでこにコツンと指で小突くと、再び泣き出してしまった。
「...だって、実は、虐待してた俺を守るために、連れ去ったとか、そんなこと信じる? でも、あいつが来てすぐに言った言葉で、合点がいった。
「デカくなったな。 これで、壊れにくくなったな」だって。
…怖かった。
たぶん、いつかあいつのせいで、死ぬ運命なんだろうなって考えた。
もう、死んだ気分だった。
空港でカオルの声が聞こえて、俺、その時に生き返った気がした。
…ありがとう...」
涙を溜めたままの美継を見て、抑えることはできなかった。
彼の唇に引き寄せられていた。
「...ン...」
彼の不安が少しでも取れるなら、手段は選ぶ必要がないと思った。
しがみつく彼の手に力がこもる。
美継が求めてくるのに応えていた。
「えっと、お前ら、もういい?」
ー!?
唇を離すと俺の母親が立っていた。
片手にスマホを持った状態で。
「...念のために、居場所を知らせるアプリを入れてて大正解。
ま、美継君はこれから、色々と大変だと思うけど、私らがついているから大丈夫よ。 安心しなさい。 勝手なことだとは思ったけど、美継君の本当のお父さんのことももう大体調べが終わったわ。 大丈夫。 心配はいらないわ」
さすが、元弁護士の探偵だ。こういう時、すげー力になる。
「それよりも、こんな外でいちゃつくのは止めなさい。 物好きはゴロゴロいるんだから。 うちに帰ってしなさい」
ヒラヒラと手を振ってどこかに歩いていく。男よりも男らしい母親には一生勝てない気がした瞬間だった。
攻め 男気の溢れる元弁護士で現探偵の母親を持つ高校生 カオル
受け 幼い頃、実父に虐待されてそれを見かねた使用人が連れ去り、愛情を与えられて育てられた可愛い系男子。泣き虫で、カオルの幼い頃からの友達。
母親 家の中ではセクシーランジェリーに身を包み、競馬新聞を片手に寛ぐ瞬間が至福の時と豪語するシングルママ。元弁護士だったが、刺激を求めて探偵にジョブチェンジ。カオルの父親とは、酒と事件解決の勢いの一夜の過ちにつき、何も告げずに出産している。本人とはカオルを産んだ半年後まで顔を合わせなかったのでいまだにバレていない。そして、その父親に現在も口説かれ中。
美継を連れて行った男 美継の父親ですぐに暴力へと繋がっていく男。過去に何度も男の元で生まれた幼児が不可解な死に方をしており、警察関係では要注意人物とされている。
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